このレビューはネタバレを含みます
2019年製作のアメリカ映画。少し遅れての日本公開となりましたー。
【自分を抑えて家族のために尽くしてきた、元天才建築家で現在は専業主婦のバーナデットが鬱憤を爆発させ、家出して南極へ向かう!!】という破天荒コメディ、という触れ込みの作品だが……
これ、監督が<『恋人までの距離(ディスタンス)』から続く『ビフォア~』三部作>や『スクール・オブ・ロック』、『6才のボクが、大人になるまで。』、『30年後の同窓会』などなどとハズレ無しのリチャード・リンクレイター。彼は『スクール・オブ・ロック』や『バーニー/みんなが愛した殺人者』も面白かったですね。好きな監督だ。原作はマリア・センブルという人が書いた小説らしいけれど、リンクレイターが2人の脚本家と共に共同脚色に名を連ねている。
おまけに主演がアカデミー賞を二度も獲得している名女優、ケイト・ブランシェットと来たもんだ。本作でもゴールデン・グローブ賞のミュージカル&コメディ部門主演女優賞にノミネートされていた。
バーナデットの夫にビリー・クラダップ、娘にエマ・ネルソンが扮している他、クリステン・ウィグ、ジュディ・グリア、スティーヴ・ザーン、そして名優、ローレンス・フィッシュバーンらが共演している。
うん、観るっきゃない♪
……と思ったら、これが<破天荒コメディ>という惹句からは想像出来ないぐらいに、結構な深刻さも帯びた作品だった。バーナデットはストレスフルで神経症&不眠症だし、適応障害に陥りかけてもいる。極力、薬は飲まない主義&医者嫌いだが、抗不安薬を処方され、それをドッサリとため込んでいるという設定だ。近所付き合いも決して良く無いばかりか、近所の住民や娘のクラスメートらも一癖も二癖もある人達ばかり。それがまた、バーナデットのイライラを募らせ……
で、バーナデットが設計から建築までを手掛けたマイホームの隣家に土砂崩れが発生。原因は隣家の要請に従って庭木を切ったからなのだけれど、全部が全部をバーナデットのせいにされて、バーナデットはブチギレる。おまけに亭主とも心が繋がりきれていない。それがもどかしさとしてバーナデットの心の中にある。娘は可愛いけれど、近く、南極に家族旅行をする予定であるのも、本当は行きたくない。
と、色々なジレンマに悩まされている中で、バーナデットを精神科医に診せようとする夫。同時に、バーナデットがネットを通じて利用し、信頼していた会社が個人情報を抜き取って悪用する犯罪組織で、クレジットカードのパスワードがダダ漏れ。結果、資産から何から何までが持って行かれるかも知れないという事態に発展……
バーナデット、遂にパニックっ!!!!!!
「こうなったら独りで南極に行くわ!!」となる。
……のだけれど、この作品、「さて、ここから珍道中が始まります!」という語り方じゃあない。だって、ファースト・シーンが、<南極の海の上でカヌーを漕いでるバーナデット>なんですもの。
もう、南極、着いとるがなっ!!(笑)
と、のっけから意表を突いた倒置展開を見せてくれる。ここでノレるかノレないかが、本作を楽しめるか否かの一つの分かれ道であるかなぁ。あと、想外に話が深刻という点も観客を選ぶかも知れない。
けれど、僕はコレ、好きだなあ。綺麗事じゃあなくてね。能天気なコメディも楽しいけれど、これはコメディというより人間ドラマだな。底抜けに楽しいという手合いの作品じゃあない。相変わらずの巧さでグイグイと見せ切るケイト・ブランシェットに拍手をっ!!(←角度によっては目元がシャーリー・マクレーンにそっくりになってきた)
素っ頓狂で、馬鹿笑いの出来るような作品では無いので、そういうのを期待した向きには不評かも知れないけれど、嘘事じゃあないところがね、イイわ。それでいて気持ちの良い幕切れも心地良い。
エンドロールの最後の最後に【私にとってのバーナデットに捧げる】として、リチャード・リンクレイターによる母親(2017年没)への献辞が映し出された瞬間、「あ、心を込めた作品なんだな」って。
うん、良かったです。秀作。