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痛くない死に方のjamのレビュー・感想・評価

痛くない死に方(2019年製作の映画)
4.0
初めて受け持ちしたのはサカモトさん

看学の基礎実習
割り当てられたのは82歳の男性
肺炎からの寝たきり、自力で動くことができない

緊張で声を上擦らせながら挨拶する私に
サカモトさんはにこりと目元を綻ばせた
気管切開しているので、声を出すことができないのだ

側についていた同年配の奥様から
ほんとうは自宅へ連れて帰りたい、
本人もそう望んでいると伺った
けれど、ただの看護学生の、しかも初めての病棟に戸惑うばかりの私にはどうすることも出来ずに

週末を挟んで、月曜日に病室へ行くと
サカモトさんの病状は悪化していて
酸素吸入、手足の点滴、尿管の管…
心電図や酸素濃度測定、血圧計なども合わせると身体中にいろんな管がくっついて
初めて看る患者さんのあまりの様変わりに
ひどく動揺した覚えがある

願いも虚しく、サカモトさんは天に召されたと実習後に聞いた


今ならば
立場も状況も違うし、もっと違う対処が、と思わずにはいられない
サカモトさんを家に帰して奥様と一緒に
最期を看取ることが出来たかもしれない



この映画の主人公、河田先生は在宅医としてお世辞にも良い医師とは言えない状態だった
痛みのない、穏やかな最期を望んでいた患者さんの対応もマニュアル通り、いやそれすら果たせていなかった

「ご愁傷様でした」
手を合わせる心の中では
「どうかこの家族からクレームが来ませんように」

"痛い"ことは我慢出来ても
呼吸の"苦しい"のは耐えられるものではない
もがき苦しみ、息絶えた父
娘は「私が殺したんですか」と
言葉を絞り出す

医師を志した頃の想い
過ぎてゆく日々に置き去りにされたその想いが 
彼をほんとうの"在宅医"へと向かわせる


街が病棟
自宅が病室

宇崎竜童演ずる末期癌患者との
飾らない心の触れ合い

最期の花火
交わした盃、それこそが生きる手応え


私が看護の道の一歩を踏み出した頃と比べて
終末期医療は進歩した、のだろうけれど

住み慣れた家で
愛おしい人たちに見守られて
という状況は
もしかしたら古き良き時代に還ったということなのかもしれない


痛みなく
悔いなき最期
平穏死
jam

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