みかんぼうや

痛くない死に方のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

痛くない死に方(2019年製作の映画)
3.5
【在宅医療を選ぶという、“尊厳死”の形。1人の医師の挫折と成長とともに、人生の最期にどう向き合うかを考えさせられる医師と患者と家族のヒューマンドラマ。】

最近邦画ばかり観ているのは、邦画ブームがきているわけではなく、U-NEXTのマイリストに入れていた邦画たちの中で偶然3月末終了配信が続いているからです。が、新旧様々な邦画を織り交ぜて観る中で、それぞれの時代の常識や価値観の差を感じることができ面白いです。

さて、在宅医療をテーマにした本作。主人公は主に末期がん等で在宅医療を選択した患者に治療を施す在宅医の河田(柄本佑)。ろくに休みもなく昼夜問わず対応にあたらざるを得ない河田は、在宅医療の現場に疲れ果て、各患者や家族への対応もおざなりになっていたが、ある患者と家族との出会いをきっかけに、仕事への姿勢、そして在宅医療に対する向き合い方を変えていく・・・

在宅医療を選択するという、“尊厳死”の一つの形。その現場を知らず、このテーマの邦画をほとんど観たことがなかったので、純粋に新鮮で勉強になった、というのが第一の感想です。そして、つい最近「PLAN75」を観たばかりなので、なにか「PLAN75」の世界に抗う一筋の光を本作に見たような気がしました(実際は直接的に抗うものではないのですが)。

医師の在宅医療に対する姿勢と、患者や家族と医師との対話や合意形成の在り方で、患者や家族がその最期をどういう気持ちで迎えられるかが大きく変わっていく、ということを非常に分かりやすく描いていて(ちょっと映画的で極端な気がしたのも本音ですが)、“尊厳死の在り方を考える”というテーマとしては良質な作品だと思いました。

一方、私の中の天の邪鬼発動なのですが、前半の死んだ魚のような目をした医師河田が、作中のあることをきっかけに、後半は完全に別人のような医師になっていることに、悲痛な経験を経て2年経ったとは理解しつつも、まさに“別人”レベルのキャラ変だったことに、若干違和感を覚えました。

また、その河田の変化に伴い、前半では非常に重苦しい現実を直視するシリアスな作風だったものが、後半は一気に温かい、いやむしろたくさんの終末俳句とともにポップさを感じる作風に変わったのにも戸惑いがありました。担当医師の考え方や姿勢によって、ここまで露骨に、その死に際の苦しみが変わる、というのも、分かりやすさ重視とはいえ、その作風の変化と相まって、頭を整理するのに少し時間がかかり、その間に若干作品から置いてけぼりを喰らった感があったのも事実です。

この作品には“尊厳死”というテーマの上に、河田自身の医師としての意識の変化や成長と、それによる患者や家族へ与える影響の変化を物語の骨子として据えているので、映画として考えるとこれくらいの分かりやすさは必要だったのかもしれません。が、2年間のあまりの変わり身に、ややリアリティに欠ける部分を感じ、少し気になってしまいました。おそらくその中間(変化の過程)がなかったので、自分には少し唐突に見えたのかな。

ただし、そもそもリアリティを追求する作品ではないでしょうし、実際、人は変わり成長していくもので、これくらい意識や患者に向き合う姿勢が変わることは実際にありえるかもしれません。そして、それは肯定的に捉えるべきものだろう、と言い聞かせている自分もいます。

本作や先日の「PLAN75」のような作品を比較的短期間で観ると、やはり自分の最期はどうありたいのか、そして親は何を望むのか、と自然と意識してしまいますね。まだまだ医療や社会も変化していくと思いますが、そんなことをふと考えるきっかけになった、魅力的な作品でした。
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