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劇場版 SHIROBAKOのSQURのレビュー・感想・評価

劇場版 SHIROBAKO(2020年製作の映画)
4.0
"どんな苦難でも努力すればなんだかんだ成功できる"といった高さにリアリティラインを敷いていた本編から一転、冒頭で4年後の物語であり既に決定的に終わってしまった物語だと示すことで、一段高い位置にリアリティラインを引き直す。このギャップは衝撃的でつかみとして最高。
そして、その後に展開される物語は結構歪な形をしている。ファンムービーとしての側面がかなり強く、基本的にアニメ本編のあの人のその後!といったキャラクター紹介主軸の展開であり、また本編の演出を踏まえたシーンもふんだんに盛り込まれている。
その一方で、"現在の"彼女達の生活はあまり尺を割いて描かれることがない。代わりにこの映画の大半を占めているのは「メッセージ性」だ。
「将来の不安に囚われるのではなく、自分が何をしたいか何を残したいかを考えてそれをすべし!」という力強いメッセージが、元社長や先輩、話を受けて内面化した主人公たち、作中作の登場人物たちによって、都度7,8回繰り返される。しかもはっきり言葉で説明し尽くす。これは偏執的とも言える程で、最終シーンでは「きっとメッセージが伝わったはず」と制作側の想いと主人公の想いがオーバーラップするような"あとがき"も付け加えられている。思うに、映画の制作陣自身も不安だったのだと思う、このメッセージを届けられるか。このメッセージを信じ続けていていいのか。そういった人間らしさが垣間見えるのは、映画においては「良いこと」だと私は個人的に思うけど、あなたはどう思いますか?
とはいえ、映画全体を見ると、メッセージを伝えることを最優先し、主人公勢の現在の生活にあまり焦点が置かれていないため、どういった葛藤や疲労があったり、仕事や他者に対する感情があるかということを味わう余地が少なかったように思え、印象の薄い物語になってしまった感は否めない。

さて、劇中劇があんまり面白そうに見えない、というのもこの映画の象徴的なところだ。あんなに力を入れて作り直したクライマックスも、構図は近すぎて見にくかったり重要なところでフィックスになっていたり、セリフもいまいち決まりきらず、そんなに良くはない(最初よりはずっとマシではあるが)。この作中作のクオリティの低さを本作自体の欠点と捉えることもできるだろうが、こういった解釈もあるのではないかと観終わっていま思う。それは、常に挑戦は過程でしかないということを、非言語的に(映画的に)表した表現であるという見方だ。作中においても、映画がすごく受けている描写はない。たくさん観客が入っている様子や、口コミが広がっていく様子や、観客側のリアクションはほとんど映されない。つまり、あんまり成功していないのではないかと思う。しかし、伝えたいと思うことややりたいことに対して妥協せずそれに挑戦したということが、重要なのだ、と、成果物の"社会的評価"を映さないことで逆説的に描かれる。挑戦は常に過程であり、それでも進まないといけない(俺たた)という言語超越的メッセージが、言葉による主張ばかりの本作の中でひときわ際立つ。

私は本作の公開当時まだ働いておらず将来に不安を覚えていた。働けている今、私はこの映画を観てもその強いメッセージ性に対して「そうだよなぁ」と思いながら観ることができたが、当時の自分が観に行っていたらどんな感想を抱いただろうか。
公開からさらに4年が経とうとしている。彼女たちは今もアニメをつくり続けているだろうか?
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