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NO SMOKINGのymdのレビュー・感想・評価

NO SMOKING(2019年製作の映画)
4.4
細野晴臣のデビュー50周年を記念して制作されたドキュメンタリー。
誕生から制作時2019年までの半生を本人のインタビューとライブ映像、氏にまつわる関係者たちとの対談などを通してダイジェスト的に語っている。

そもそも細野晴臣という音楽家の懐の深さはたった一本の映画で語り尽くすことなど到底不可能なことで、本作でも一通りその音楽史の変遷を辿ってはいるものの、あくまでも氏のエポックメイキングな出来事に断片的に言及するに留まっている。

ただし本作がとても素晴らしいのは、細野晴臣のキュートで飾らない人柄を映し出すというスタンスを一貫していることにあり、全編を通して彼に魅せられた者たちによって構成された絵作りになっていることにある。

そうした意味では(比較するのはナンセンスだが)同じYMOの坂本龍一のドキュメンタリー『Ryuichi Sakamoto:CODA』とは趣がずいぶん異なる作りになっており、それがそのまま細野と坂本という2人の天才の在り方の違いにも繋がっているような気がして興味深い。

日本のみならず、世界的にも類を見ないほどに多彩でいて深度の高い音楽を生み出し続けてきた細野晴臣という人間のパーソナルな魅力を、様々な知人たちとの交流を切り抜きながら柔和な表情で描き出すドラマチックなドキュメンタリー作品として見どころが多い。

はっぴいえんどやYMOはもちろん、ヴァン・ダイク・パークス、横尾忠則、星野源、マック・デマルコなど国内外問わず様々な人物たちが一様に細野晴臣という人間に惹かれ、周りに集まっている様子は微笑ましくもある同時に、彼が世界の音楽・アートにどれだけ偉大な功績を残してきているかということを物語っている。

熱心なファンならば本作で語られる内容の大半は知ってることだろうけれど、氏の膨大なバイオグラフィーを部分的にしか知らない人にとっては驚きと喜びが尽きない構成になっているという点において本作は「細野晴臣入門」としての価値を有している。

個人的にはYMOの再活動後のライブやマック・デマルコとの共演ライブシーンなどは映像として見るのは初めてだったので非常に興奮した。
マック・デマルコのような海外の若者たちが細野晴臣に熱狂しているシーンが度々登場するが、それこそが日本のポップスの可能性と豊かさを証明しているようで何よりも嬉しくなるのである。

本作は細野晴臣という偉大でいて愛すべき人間を垣間見ることができるドキュメンタリーであると同時に、日本音楽の豊潤さ・独創性の一端を知ることができる貴重な資料でもある。

細野晴臣という本の章立てがこれからも増え続けくれることを切に願う。切実に。
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