喜連川風連

マトリックス レザレクションズの喜連川風連のレビュー・感想・評価

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時間が経てば経つほどに難しい続編の制作。いわゆるマトリックス警察が育っていく。マトリックスとは哲学だ!いやカンフーだ!いやいやバレットタイムだ!

ウォシャオスキー自身、うんざりするほどに聞かされてきただろう。

それを丸っと含めて、ここまでの作品に仕上げたのは流石の一言。

大作を作った作家の苦悩を多分に含むマトリックスはやっぱり「作家」の映画で安心感があった。

青年期に「愛」で突っ走れたことも、壮年期中年期には守るものが出来たり、変化を恐れたりして、人は老いていく。

鉄火場のようなザイオンはもはやなく、安定成長期に入っている様子が印象的だ。

人類との共存を選んだはずの機械たちがなぜ、またマトリックスを作ったのか。

「羊たちは無知であることを望んでいる」

自由意志には痛みが伴うし、知らずにいたまま、惰性な日常を謳歌したい人もいる。

1999年公開当時よりも、ずっと社会にはインターネットが普及している。より刺激的な映像やフェイクニュースは世の中に溢れ、「現実」と「空想」の境目もあいまいになっている。

メタバースやVRの登場。現実より傷つかない平和な日々を望む人もいるだろう。その中でもこの映画はブレない。「さあ、お前は何を選択するんだ?」

真実の愛、運命論、目的論、自由意志、生きる意味。

人類存亡の危機が生む独特の逼迫感は失われたものの、あの哲学は健在だ。

預言者が消えたことで、東洋哲学的な要素は消えてしまったものの、自由意志への希求はブレない。

戻ってきた現実でネオが乗る船の名前は「ムネモシュネー」これはギリシア神話の記憶の神。

劇中「モブ」と称される意志のない人々の象徴として日本人が出てきたのには笑ってしまった。

愛を無くすことで苦悩のない解脱した状態「マトリックス世界=空(kuu)」で生きるか、それとも傷つき転がりながら自由意志とともに「色(iro)」の世界に生きるか。

どっちがいい悪いではなく、色は即ち空であり、空は即ち色である。色即是空。

だが、物語の構造上、自由意志絶対主義にも見えてしまう。だが、マトリックスで生きることも決して不幸せではないとも自分は思う。それが与えられたものではなく自分で青いカプセルを選択しているのならば。

もう一度、第1作を見返したが、アクションをスローで丁寧に見せているのが印象的だった。スローにすることで逆説的に速く見える。

速かったりダイナミックだけがアクションじゃないですね。
喜連川風連

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