蛸

マトリックス レザレクションズの蛸のレビュー・感想・評価

4.1
長い時を経てのシリーズ4作目は、「マトリックスについてのマトリックス」といった趣の強い、非常に自己言及的な作品(より詳しく言うと、レッドピル/ブルーピルの二者択一を始めとるするマトリックスを象徴とするような要素が、トランプ支持者たちにアイコン的に祭り上げられ「簒奪」された状況に対するラナ・ウォシャウスキーなりのアンサーであり、そういったものをも含めた「マトリックス現象」についての作品)。

そういう事情もあって、マトリックストリロジーの続編でありながら、その語り直しで観客を違うところに連れて行こうとするようは構成の映画でもある。
しかしながら、前作の公開時と同じように、革新的な映像や世界観が提示されるわけではないので、退屈を感じる場面も多かった。物語冒頭の、ブラックコメディ味溢れるシークエンスの「楽屋オチ」感が一番新鮮だったと言うのが正直なところ。
おそらく、ブロックバスター映画であるために要請されたであろう、特に新鮮味のないアクションシーンを削れば148分の長尺も少しは短くなったのでは……という印象が強い。

とはいえ、この規模感で非常にパーソナルかつ社会的な拡がりを持ったテーマを描き切った作品は稀有だと思う。
マトリックスシリーズの意味を書き換える(書き戻す?)、という意味で非常に意欲的な作品だと思った。

かなり変化球的な続編だが、「今更、続編を作る意味があるのか?」という問いに対してストレートに答えた作品でもある。
シリーズの4作目であると言うハードルや、世界観のややこしさに比べると、赤と青の二項対立を超えて「虹色」に至るラストシーンなど、メッセージはかなりわかりやすい。
何より、ややこしい背景を抜きにしてもここまで衒いなく中年カップルのラブロマンスを描いていることにこの上ない清々しさを覚えた。
蛸