垂直落下式サミング

マトリックス レザレクションズの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.5
かつて人気を博した『マトリックス』というゲームを作ったゲームクリエイターは、夢と現実の境界が曖昧になる症状や度々生じる既視感に悩まされていた。社内では新作「マトリックス4」の企画が持ち上がり、その制作に追われる中、彼は自身がつくったゲームのキャラクター・モーフィアスと遭遇する。
お分かりの通り二重入れ子構造。いわゆる「救世主」引き立て役だったモーフィアスやトリニティ、そしてエージェント・スミスらの物語には、何かしらの決着のようなものを示そうとしており、実はシリーズのなかで報われていなかった者たちに今一度役割を与えて、隙間を埋めるようなストーリーになっている。僕にとっては、けっこう納得度が高いものだった。同人誌みたいなことを公式でやってくれるのは、なんやかんや嬉しい。
超有名ヒット作の続編なのに、真の最終章だとか、リブートという扱いではなく、前の続きとしてストーリーを前に進めることにしたのは、ウォシャウスキーらしい覚悟の決まりかた。
前作ありきではなく、過去を否定して、ここから新たにはじめるってぐらいのスクラップ&ビルド精神に惚れました。
それしにても、「これが最後の戦い!」「奴らが帰ってくる!」みたいなのが多すぎる。いいじゃんね?常に全力投球で人気萎んだら打ちきりでも。やり直しとか、そういうのいいんで、あらゆる続編モノは、許されるかぎり軽率に続けるべきだと思う。
「この世界をおかしいと思ったのなら、みずから立ち向かうべき!作り事の安寧に甘んじるな!」って、この主張だけは常に一貫しているのは大したもんなのであろうが、20年以上前の第一作目から結論が先へ進んでいないのは致命的。思想性に進歩がみられない。
結局、現実はバーチャルでしたテッテレー!という一作目の衝撃的な固定観念ぶっ壊し大喜利を越えられておらず、あの結末を否定しきれていないから、続編製作とかいう「隙」が生まれてしまうんだと思う。
サイバーパンク、入れ子構造、メタフィクション、アナーキズム、作品世界を構成する要素は面白さに溢れる。青臭い自主製作っぽいのに画面はそこそこ綺麗。メジャー大作なのに作り手のパーソナルな思想がわかりやすく込められている。総じてわかり手オタクに受ける作品。