MasaichiYaguchi

水上のフライトのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

水上のフライト(2020年製作の映画)
3.7
不慮の事故で夢を絶たれた走り高跳びの有望選手が、母やコーチ、カヌー仲間の子ども達のアシストを受けながら、パラカヌーに自分の居場所を見出だして前を向いていく姿を描く本作は、不安や閉塞感だらけの中にいる我々にエールを送っているような気がする。
私もレジャーランドでカヌーに乗ったことがあるが、バランスを取るのが難しく浮いてるだけでも大変だった記憶がある。
だから主演の中条あやみさんが普通のカヌーだけでなく、競技用カヌーで水上を疾走しているのを見ていると胸が躍る。
この作品は「居場所」がテーマになっていると思う。
ヒロインの藤堂遥は走り高跳びが自分の「居場所」だったのに事故でそれを失い、カヌーのコーチである宮本浩は家庭や家族の問題を抱えている子ども達に「居場所」を与えようとカヌー教室を開き、パラアスリート用の装具を製作している加賀颯太は一番の提供者である親友を亡くしている。
初めは自分の不幸を呪って自暴自棄になっていた遥だが、コーチの宮本や颯太、そして子ども達と出会って触れ合う中で、自分が見失っていたものに気付いていく。
それは「人は一人では生きていけない」ということ。
やる事なす事が絶好調な時は“俺様”状態になっていて、自分を支えてくれている人々が眼中に入らない。
だから“落ち目”や失意に囚われた時に初めて、人は他者の有り難みを知る。
本作は遥の再起していく中での気付きのドラマを、スポ根と共に熱く描いていく。