岡田拓朗

街の上での岡田拓朗のレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
4.2
街の上で

誰も見ることはないけど、確かにここに存在してる。

とにかく温かくて優しい。
何気ない日常の延長で築き上げられるちょっと特別で理想的な日常が積み重ねられていく物語。

日常の中に起こりそうで起こらない。
でも何かよい意味での既視感、懐かしさがあって、心の奥底では求めているような世界が広がっている。
それがささやかで特別な日常のように感じられる。

ネットが発達してきても、あえて街の上で(だからこそ)織りなされる群像劇が描かれているのがよかった。

ついにクスッと笑ってしまうセリフの応酬や一連のシーンの作り方が館内に微笑ましい一体感を生み、それらは誰かが傷つくことも後ろめたさを抱くこともない温かくて優しい笑いがベースとなっているので、ずっとこの世界に入り浸っていたくなる。

誰かを想ってる(気を遣うことも含めて)がゆえに起こるシーンの連続で、それだけそれぞれの繊細さが心の機微とともに伝わってきて、反面教師みたいに嫌な人が出てこなくて、誰もを憎めずに人間味のある愛らしいキャラとして共存させていく感じも今泉力哉監督の作品らしくて好印象。

街の上で繰り広げられるそれぞれの日常だけでも十分に作品としてずっと観ていたくて、温かい空気に満たされるような感覚になるが、誰かに向けてではなく、誰もに向けて享受して欲しいんじゃないかと感じるほどに、展開におもしろさや予期せぬ伏線回収もしっかりとある。
あくまで映画としてできるだけ色んな人が楽しめるような展開で、日常や監督なりの理想的な空間をしっかり映し出していってる点もまたよい。

後半にかけては、前半で描かれ積み重ねられてきた物語や一つ一つのシーンに奥行きが加えられ、さらに色んな感情を思い起こされたり、考えさせられる展開となっている。

特にずっと一緒にいることを考えたときに、一緒にいて楽しい居心地のよさを軸にする「好き」と、憧れにも似たずっと追いかけ続ける感覚を軸にする「好き」とが、街の上で共存されてるように映し出されて、それらのシーンは『愛がなんだ』で考えたことを彷彿とさせられた。

さらに恋愛や好きだけではないその狭間で揺れている人間模様や思いまでもを浮かび上がらせていって、その描写も表現が難しいけどちゃんと共感できたり感情移入できるようになっている。

異性間の中でも成り立つ確かな友情の形や知り合いという間柄においても芽生える放っておけない感情など、街の上で生きているからこそ起こる色んな事象が関係における正しさをあえて置かないように、それらが全て受け入れられるべき事象として肯定的に映し出されていた。

それらが渦巻かれていく中で、今まで積み重ねてきたものを(偶然という名の必然みたいに)鉢合わせ、絶妙なズレを愛おしい笑いとして包み込むあのシーンは最も好きだった。(観た人はどこかわかると思う。笑)

今泉力哉監督の作品は常に日常の視点からの人と人それぞれの関係、そして人間模様が描かれるものの、現実というよりもどこまでも理想を広げていって、そこには人間の根底にある温かさや優しさを諦めたくない想いがあるのではと感じる。

とにかく優しい世界に浸って、温かい気持ちになりたい方におすすめの作品。
そんな余韻に包み込まれます。

下北沢に住んでみたい。
最近わりとまじめに上京するか悩み始めてる。
せっかくの人生だから、行けるときに一度は東京をちゃんと経験しておきたい想いが日に日に強くなってきてる。笑

P.S.
主演の若葉竜也さんの役者っぽさを排して普通と受けに徹する演技が素晴らしすぎたのと、とにかく出てくる女性がとても魅力に演じられていた。
全員よかったけど、特に穂志もえかさんと中田青渚さんが役のハマり具合やキャラも含めでとてもよかった。
成田凌さんはもうなんかズルい。笑
『おちょやん』に続いての若葉竜也さんとの共演なんか熱かった!
『くれなずめ』も楽しみ!
岡田拓朗

岡田拓朗