Ricola

街の上でのRicolaのレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
3.6
再開発でさらに「文化の街」というイメージが加速している下北沢。
そんな街を舞台に、若者たちが発信しているさまざまな新しい文化を享受しつつ、自分の殻から抜け出すことのできない青という青年を中心に人と街が繋がっていく。


青は自分の働く古着屋でカップル未満の男女のお客さんのやり取りに介入してみたり、仕事帰りに一人でふらっとライブに行って、路上喫煙を注意してきたおまわりさんになぜか秘密を明かされたり、行きつけのバーでマスターと常連客と話して帰宅…。
そんな「なんの変哲もない」日々を青は送っている。
偶然見かけた素敵な女性に心惹かれるものの、一歩を踏み出すことができない。
青にとって新たな人との出会いは、自分で作り上げてきた心地よい空間から出ることなのだろう。

間の悪い青のおかげで、作品のコメディ要素が強まる。
古着屋でお客さんに声をかけようとするたびにその連れが試着室から出てくるし、古本屋で店員の田辺(古川琴音)に恥ずかしい過去を話そうとするたびにお客さんが入ってくる。
この間の悪さは、青という人物への愛おしさを表すものに感じられる。

文化は残るけど街は変わっていくこと。
カフェにてヴィム・ヴェンダースの話をする男性二人組と、下北を舞台にした漫画について店員に質問している女性客。こんな「文化的な」会話が繰り広げられているカフェのすぐ隣では新築工事がされているのだ。

そんな街で「引きこもる」青が新しい世界から引っ張り出されたことによって、彼の周囲が変わっていく。どんどん人と人が結びついていく。
古着屋のお客さんとカフェのお客さんがすれ違ったり、町子の映画に出演したことでの出会いが実は妙な形で結びついたり、さらにはおまわりさんもお相撲さんも…。不思議なことにそれぞれが絡み合っていくのだ。そこに縁の存在を感じたくなるほど。

カメラは終始観察する視点に徹しているのも特徴だろう。急に大きく動くことや細かくショットをつなぎ合わせることはあまりない。ただ人間模様の絡み合いを静観しているだけである。

さまざまな人との出会いを描きつつも、結局たどり着くものは日々の幸せであり、文化と街がどんどん更新されていくなかでも、それだけは不変のものであってほしいと願いたくなるものである。
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