シズヲ

シチリアを征服したクマ王国の物語のシズヲのレビュー・感想・評価

4.0
クマの王様、行方不明の息子を探して人間の住まう世界へと向かう。残忍な大公との対立や様々な旅路を経て、再会と共存へと至るが……。フランスとイタリア合作のアニメーション映画。絵画を思わせる色彩や構図、絵本のように柔らかく暖かなタッチがとても印象的。異国の童話めいたイラストが終始ぬるぬる立体的に動くので視覚的な面で楽しい。尺の短さとシンプルな筋書きのおかげですんなり楽しめる(本作自体が昔話の体裁なのも何だか面白い)。

前半はとにかく“群体”うごめくアニメーションで、クマの大集団やカラフルな色合いの軍隊など無数のキャラクターが画面上で動き回る絵面が鮮烈。両者の対比性も相まって時折紛争のような趣さえ感じる。クマ達が歓喜で踊り狂ったり、雪玉から軍隊が必死に逃げ惑ったり、お化けの軍勢が陽気に動き回ったり、ユーモラスなアクションの数々が見ていて楽しい。

前半に関しては紛争じみた要素を抱えつつもあくまでシンプルな冒険譚の範疇だけど、それでも動的な場面の数々だけで楽しめる。アニメ、やはり画面に魅力があるとそれだけで見応えがある。両者の激突がサーカスと交差するシーンが特に好き。魔術師の爺さんはこの序盤からあちこち駆け回って印象的な立ち位置にいるので面白い。あと大公の憎たらしさもやけに味わいがある。

クマ王国が成立する後半からは息子が話の軸に。単純だった前半よりも寓話性が色濃くなり、国家を統治する立場になったレオンスの錯綜や人間のように政治的野心に染まった側近の暗躍などが描かれる。このへんの粗筋にそこまで特筆するような要素はないけど、それでも人間性とクマ性(?)の矛盾と葛藤が浮き彫りになる構図は印象深い。後半になるとアクション的な見せ場は控え目になるものの、それでも色彩感覚は相変わらず良いし終盤の大ヘビとの対決は劇的で面白い。
シズヲ

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