kkkのk太郎

くもりときどきミートボールのkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

発明家を夢見る青年フリントが引き起こす大騒動を描いたSFコメディ。

天才クリエイターデュオ、フィル・ロード&クリストファー・ミラーの長編映画監督デビュー作。
『REGOムービー』(2014)や『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)、『ミッチェル家とマシンの反乱』(2020)などの傑作により世界のアニメ業界に幾度も衝撃と変革をもたらした彼らだが、全てはこの映画の成功があったからである。

「空から食べ物が降ってくる」といういかにも子供向けな設定。しかし、あのロード&ミラーがただのお子様向け映画なんてそんな安直なものを作るわけがない。
画面いっぱいに広がる食べ物の雨霰、ハンバーガーが降ってきたりアイスクリームが雪のように積もったり…。
こういったギミックに子供たちは目を輝かせる事だろう。素っ頓狂な見習い科学者フリントのドタバタもとても楽しい。
しかし、本作のギャグやコメディは基本的にはめちゃくちゃオフビート。何それ!?と言いたくなっちゃうシュールギャグの数々は、完全に大人に向けて作られている。一つ一つのギャグのセンスがとにかく高いため、ニヤニヤしながら鑑賞出来ること請け合いです。

本作にはいくつもの教訓やテーマが込められているが、それはいくつかのレイヤーになっている。
一番わかりやすいテーマは「食べ物を大切にしよう」ということ。
空からハンバーガーやステーキが降ってくる。その奇想天外な光景に驚いていた住人たちだが、それが当たり前になってくるとどんどん食べ物を粗末に扱うようになる。作り出すだけ作り出しておいて、食べない分はゴミにポイ。山と積まれたフードロスは、やがて雪崩となり街を壊滅させる。
食べ物のありがたさを忘れそれを粗末に扱う人間にバチが当たる。まるで日本昔ばなしのような物語だが、子供たちに食べ物の大切さを伝えるためにはこのくらいダイレクトに描いた方が良いだろう。ジャンクフードやお菓子を食べすぎて具合を悪くしてしまう子供も出てくるが、これもとってもわかりやすい形で栄養の良い食事をとることの大切さを教えてくれる。Eテレで放送すべき、とっても立派な教育映画である。

そしてこれよりも一段深いレイヤーでは、行き過ぎた科学技術と貪欲な権力者が結託することに対して警鐘を鳴らしている。
火薬や製鉄に始まり自動車、鉄道、飛行機、ロケット、人工衛星と、人類により発明された科学技術は押し並べて破壊や殺戮の道具として用いられてきた。純粋な好奇心や人の役に立てたいという善意から生み出されたものだった筈なのに、権力者たちの手に渡ることによりそれは狂気の破壊兵器へと歪められてしまう。テクノロジーの発展は確かに大切なことだが、それを生み出す科学者には高い倫理観と易々と権力に靡かない強い精神力が必要である、ということをこの映画は説いている。
水素の力で物を生み出すマシンFLDSMDFRは、間違いなく核兵器のメタファー。子供向けの楽しい映画の裏側に反核のメッセージを込めているところに、この映画の志の高さを感じる事が出来る。

これだけでも高いテーマ性を持っていると言えるのに、本作は更にルッキズムや女性蔑視などのジェンダーに関する問題提起まで行なっている。
この映画のヒロインであるサムの描写は本当に素晴らしい!!「本当の自分を受け入れないと大切なものを見落としてしまう」というメッセージを、「メガネをかけないと何も見えない」という画として見せる。これだけでもスマートなのに、本作はそこが超感動的な山場となっている。
逆シンデレラ的な変身という点では『シュレック』(2001)を思い出させる展開だが、本作はそれをより身近なものとして描いており、フェミニズム映画としての確かな強度を感じさせる。
このメガネをかけるシーンと顔をパンパンに腫らしながら愛の告白をするというアンチルッキズムなシーンは本当に感動的で、まんまとポロポロと涙してしまった😭

これだけのことが描かれているが、基本的にこれは父と息子の物語。子の生き方を肯定する事が出来ない父親と、そんな父親に反発する息子。そんな2人が最後には和解する逆エディプス・コンプレックス映画としてこの作品は着地する。
こんなに詰め込まれているのに、ランタイムはなんと90分。フィル&ミラー、手際良過ぎて最早怖い…。

食べ物が降ってくるということ以上の展開や驚きは無いので、シナリオが一本調子になってしまっている感じはするし、島の人気者ブリントというキャラに関してはちょっと持て余しているような気もする。
市長がトンズラしてそれっきりというのも何となく物足りない(まぁ権力者が責任を取らずに雲隠れするというのはリアルではあるが…)。
その後のロード&ミラー作品と比べると流石に見劣りしてしまうが、それでも十分に楽しめるクオリティの高い映画であることは間違いない。親子揃って鑑賞して欲しい作品です♪
kkkのk太郎

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