しの

グリーン・ナイトのしののレビュー・感想・評価

グリーン・ナイト(2021年製作の映画)
3.3
ダークファンタジーとは言うがほぼアート映画のような抽象的イメージと抽象的台詞がずっと続き、だいたいのシーンが暗いので眠らせにきているとしか思えない。ただ、英雄譚でございといわんばかりの気品溢れるルックに反して内容がかなり卑近なのは主人公の薄っぺらさを反映しているようで面白い。

緑の騎士と交わす約束は一見アホらしいが、観ていると次第に切実感を帯びてくる。自分に「語るべき物語がない」と嘆きながら何もせず、威勢の良いことを言ってみたがあっという間に1年が経ち、渋々旅に出るも行く先々で終始受け身。あの「本当にただ渋々出発するだけの何にもならない長回し」は正直めちゃくちゃ退屈だがめちゃくちゃ面白い。こんな「英雄の出発シーン」があるか? その後も人助けに見返りを求めるとか、不思議な巨人に会うも怖気付いて帰るとか、呆気なく誘惑に引っかかるとか、とにかくダメダメ過ぎる。ここまで徹底して自堕落だと清々しい。

このように英雄誕生譚を徹底的に解体した結果、終始受け身でグダグダで旅の終着点に至ってもなお覚悟が決まらないどうしようもない男の話になったが、それにより現代的なキャラクター造形になったし、普遍性を獲得しているともいえる。そしてあのラストでそれまでの全く楽しくない時間すら、いや、そういう時間をこそ肯定されるのだからズルい。「語れる物語」などなくていいのだ。

劇中の問答の中で、緑は全てを飲み込む死と再生の色であると言及されているが、これがそのまま緑の騎士の役割に繋がってくる。欲望の果てにある破滅を見せることで、初めてその人の物語が始まる。壮大な遊び事であり通過儀礼。まさにフィンチャーの『ゲーム』のような話でもある。

とはいえ、ラスト10分でようやくこの訳わからん映画の本旨が見えるという構成は観客に優しくないと思う。内容が抽象的すぎて要領を得ない場面が多いし。ただ同時に、不思議な愛くるしさは芽生えてくる。いずれにせよ、めちゃくちゃ変な映画であることを心して観に行ったほうがいい。
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