のん

アフター・ヤンののんのネタバレレビュー・内容・結末

アフター・ヤン(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

10/27 伏見ミリオン座にて鑑賞。

『アンドロイドと人』というテーマ。私が非常に惹かれるテーマであったため、ずっと楽しみにしていた。
ある日動かなくなったアンドロイドのヤンとその家族‥その前情報だけは知っていた。
家族がアンドロイドを直す話なんだろうなと憶測して鑑賞を始める。
果たして、涙が流れなかった瞬間はあっただろうか?

まず完全に余談で私自身の話だが、私は昔から「物」への執着が強い。
大きな物ー例えば車だとかーから、小さな物ー日常使うボールペンやお皿など‥ーへの執着が強く、名前を付けたりもする。
そしてそういうお気に入りの物が壊れたり、失ってしまった時は激しく涙をする。もしかしたら、人と縁が切れる瞬間よりも泣いてしまう事があったかもしれない。

そういう自身の価値観がある上で、この物語を見始める。
ヤンが動かなくなった。その事実に幼いミカはショックを受ける。泣き叫ぶような、大きく悲しむ描写がある訳ではない。でも確かにそこには愛情があった、ヤンへの信頼もあった。それを感じさせるミカと、ミカを見守る父と母がいた。
そして分かる。この『アフターヤン』では、アンドロイドを一つの(アンドロイドという)物、以上の見方をさせるんだと。
(なぜなら私は物を物以上の価値を持って愛してしまうのだから、分かってしまった)

彼を再起動させるために、動かなくなったヤンのメモリーを見る。
映しだされるのは、家族との記憶。暖かい日だまりの記憶。お茶を淹れる、蝶を集める、自然を見る‥ヤンが、残しておきたいと思った記憶が断片的に再生されていく。
どの場面も非常に暖かくて優しく美しい。ヤンが、愛おしいと思った瞬間のメモリーなのだろう。
ヤンは家族たちと会話をする。
時々彼は、プログラムされていないから分からない‥と言う返答をしていたが、確かに彼は彼の言葉で会話をしていた。それはヤンが愛おしいと感じた物事から出来上がった、彼のプログラムが会話をさせたのだろうと思う。

ヤンに隠された秘密。
中古であるヤンは、以前5日だけ起動していた‥という話だった(なのでほぼ新品という話だった)
しかし彼は、本当は、もっとずっと前に起動をしていて、一つの家族の一員として生きていた事があった。そしてヤンは、人の死と向き合っていた過去があった。
ヤンは愛を与えてもらうだけではなく、愛を失う/大切な人との繋がりが消えるという事も知っていた。

彼は多くの愛を知っていた、多くの感情を知っていた。悲しみも喜びも。
彼は、人だった。確かに人だったんだと思う。


ヤンが愛した世界と、ヤンに愛を与えた人と、ヤンから愛をもらい絆を結んだ人々‥
そういう、愛と絆、暖かく優しい世界がこの作品にはずっとあった。大切な事が多く詰まった作品だった。
のん

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