寝木裕和

アフター・ヤンの寝木裕和のレビュー・感想・評価

アフター・ヤン(2021年製作の映画)
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劇場で鑑賞しているリアルタイムでも大いに心動かされたのだけれど、この作品は、観終わったあとにゆっくり咀嚼しながら、この登場人物たちが伝えようとしていることはなんなのだろうか…
と考え直すことが、また再び静かな感動をくれる。

一見、幸せそうな家族の中へ中古で買い取られやってきたAIのヤンが故障して動かなくなってしまったことによって、残された者たちにさまざまな感情をかき立ててゆく。

父親ジェイクも、ヤンの体中にはスパイ・メモリーがあったのではないか?… という疑念によって、気持ちを揺さぶられる。
しかし、ヤンのメモリーを可視化していくことによって、家族の中の誰よりも、あたたかい目線で彼らを見つめていたことに気づく。

人間はなぜ、いつもいつも気づくのが遅いのだろう…。

小津映画に深く心酔しているというコゴナダ監督の演出方法がこの作品に滋味深さをあたえている。

セリフ一つ一つの間に豊かな余白があったり、登場人物の会話の部分に真正面からのショットを多く使っていたり、そういう演出が静かに…そしてより深く、観ているものに問いかける。
家族の繋がりとは、そしてそういう大切なものを喪失してしまうこととは、大切なものの存在していた意味とはなんなのだろうか、と。

どんどん寒くなっていくこの季節に、かそけき優しさの毛布をかけてくれるような傑作。
寝木裕和

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