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アフター・ヤンのkmiwのレビュー・感想・評価

アフター・ヤン(2021年製作の映画)
4.0
シュヴァンクマイエルではない方のヤンにまつわる物語です。
綴りで言うとヤン先生はJan、アフターなヤンはYang。全く違いますね。

もとい。
近未来なのだろうか。AIロボがごく普通に生活に溶け込んだ世界。
非正規ルートで、ヤンと名付けられたAIロボを娘のベビーシッターとして購入し、ほぼ家族のように(というよりは執事のような扱いを感じたが)受け入れていた家族。幸せな日常。しかしヤンの故障をきっかけに静かな不穏に包まれていく。
その様子をこちらもまた静かに見守る映画だ。

ヤンを兄と慕っていた娘のために、コリン・ファレル演じる父親は必死になって修理先を探すが、正規ルートでないがゆえ中々すんなりとはいかず。そんな中でヤンの秘密が少しずつ明らかになっていく。

この映画には心に引っ掛かる設定がいくつか有って、それは各々が気に掛けながら観進めればよいと思う。そして観終えたところで回答はない。解けない問題提起。
例えば人とAIの境目。古くからの問いかけだ。何度も作品化され、何度も論じられ、答えのないまま技術だけが明確に進化していく。
様々な技術的進歩は好ましい物だけではなく、諸刃の剣だ。

しかしこの作品ではそんないかつい話に傾く事なく、ひたすらにヤンの叙情的な側面を追及していく。
ロボットなのにね。ウェッティなヤンの過去。

これがバリ娯楽系のSF作品であれば、ヤン解析の表現方法はメカメカしい画面になったのかもだが、詩を読んでいるかのような美しさで表しており、観ているこちらもヤンの過去をもっと知りたいと思ってしまうのである。目を醒まして、ヤン、と願ってしまう。ロボットなのに。

最終的に状況はさほど変わりはしないが、残された家族のヤンに対する弔いは少なからず出来たのではないだろうか。ロボットであれ、ペットであれ、人が心を寄せた物への愛着は解析できるもんじゃないのだ。揺れることこそが生だ。
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