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アフター・ヤンのKEKEKEのレビュー・感想・評価

アフター・ヤン(2021年製作の映画)
5.0
- 大傑作
- 全編にわたってマッチカットが効果的に使用され、流れるように美しい場面展開とあえてそれを裏切るファミリーダンスのオープニングはとても鮮やかに映える
- 回転や移動などのアクション的なショットの繋ぎから、時には構図や色などのグラフィカルなものまで、バリエーション豊かに効果的な編集が施されているが、そのサウンドブリッジ的な手法を応用し、作品のテーマである「記憶」「アイデンティティ」「文化」などの要素を複合的に一場面に集約したジェイクとヤンの会話シーケンスは特に圧巻だった

- ジェイクとカイラがそれぞれヤンとの対話を想起する2つのシーケンスでは、断片的な発話が映像に同期しない形で覆い被さる
- 作中で最も重要と言ってもいいだろうその場面は、2人が時折相手がアンドロイドであることを意識しながら壁を作って話しているように見える
- 記憶の中のヤンにもう一度語りかけているようにも、記録と記憶の齟齬や差分を再考しているようにもみえる

- 相手と自分の振る舞いの違いに触れたときに、他人が同じく他人の当事者であることを忘れ、生来後天的にこびりついたロールを演じてしまうことがある
- 中国茶を飲んだヤンが、ジョボジョボとタンクの底を打ち付ける音に顔を俯かせながら、その味を感覚的に捉えたいと健気に話すのは涙なしでは見ていられなかった

- プログラムされていないのでわかりませんと無機的な返答を繰り返すヤンがあのときもしかしたら泣いていたのかもしれないと、遡行的に振り返ることができるのもそこに彼が確かに存在していたからだ
- アンドロイドであるという事実ではなく、相手と自分の違いに葛藤しながら、家族として、兄として、友達として、流動的なアイデンティティを生きた
- 水に溶けだし、攪拌され、香りたつ、育った土地や気候によって違う深みを醸し出す
- 無機的な存在と有機的な存在が「記憶」というメディウムで結びつき、文化や言語や出自の壁を超えて愛し合うことができる可能性
- 別の木から接がれた枝がその木の一部になるように、過ごした時間や育んだ愛情は、カテゴリーの違いにかかわらず同じ土に根を下ろすことができる
- コロンバスの最後、2人がこれまでと少しだけ違う選択をしたようにジェイクは次の一歩を進めるためにその選択をした
- 本質的な分かり合えなさとか、そうであったとしても輝く一瞬の記憶の美しさとか、そういったものについて作品と対話することのできる素晴らしい映画

- 作中ライブハウスで繰り返し流れる音楽、絶対聴いたことあるなーって気になった→調べたらリリィシュシュの主題歌だった!
- 坂本龍一もかんでるらしい抑制的でエモーショナルな音楽、特にヤンの記憶を初めて再生する時にバックで流れている音楽!号泣!
- さすが建築は無機と有機を併せ持ったような圧倒的な美しさだし、現実に決して引き戻すことがないよう細心の注意を払って作られた美術
- 画面を構成するすべてがあまりにもうつくしい
- ウェスアンダーソン的だけど真逆、何でだろ
- 将来アンドロイドが家族の中に入ってくることは容易に想像できるし、テーマも世界観も決して陳腐化しない、これから長い間愛される作品だろうと思う
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