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境界線(1966年製作の映画)
3.9
 フランスがナチス・ドイツに攻略され、虚しくも陥落した占領時代。ジュラ地方の小さな村はルー川によって分断されており、その地域では占領下のフランスと自由地帯との間の境界線となっている。ベルリンの壁の前やトランプが作ったメキシコとの国境の前にある壁で無残にも射殺された人々と同様に、ナチス・ドイツの狙撃手はルー川の一瞬の人影に目を光らせている。戦争後の映画として戦争で深手を負った復員兵が故郷に戻る映画は枚挙に暇がないが、フランス人将校ピエール(モーリス・ロネ)は、ナチス兵士によって釈放されたものの、フランス統治化時代にはブルジョワジーの城だった彼の領土はドイツ軍司令部に成り果てている。ここでも本来は安住の地である住み慣れた家はドイツ軍の占領下にある。冗談のように聞こえるが『境界線』というタイトルそのものがクロード・シャブロルにとっては常に侵犯すべきサスペンスの対象となり、物語は動いて行く。ドイツ将校たちの目に映るのは帰還兵の美しき妻メアリー(ジーン・セバーグ)である。

 戦争で負傷したいわゆる不具者のピエールはドイツ兵の前では殆ど成す術もない情けない姿を晒すが、妻のメアリーは元々イギリス人でピエールと一緒になったことでフランスに国籍を変えた人物である。常にBBCのラジオを聴きながら、出兵出来なかった女の欲望は戦争の後方支援であり、ナチス・ドイツへの抵抗に他ならない。クロード・シャブロルの生涯唯一の戦争映画は、彼が生涯描き続けたじりじりとした境界線を巡る攻防の物語である。水面下のスパイ活動の末、ゲシュタポとレジスタンスがのっぴきならないやりとりを繰り広げるのが当時の世界線だとするならば、ナチス・ドイツの抑圧下に置かれたフランスの人々の断末魔の叫びこそが有効であり、『勝手にしやがれ』では60年代のミューズを演じた彼女がここでは何もかもが抑圧され、禁じられたかつてのブルジョワジーの令嬢を悲しく演じる。自身の作家性を捨て、ジルベール・ルノーがレミー大佐というペンネームで書いた回想録『フランス自由と境界線の秘密』を基にした小説の映画化に腐心するシャブロルの変態的な狂気ばかりがクローズ・アップされる、奇妙で歪なオブセッションである。
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