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素晴らしき、きのこの世界のmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

素晴らしき、きのこの世界(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

在野の菌類学者であるポール・スタメッツを軸に、菌類の歴史やその生態の驚異、可能性にまで触れるドキュメンタリー。映像がまず圧倒的に美しく、気付きも多かった。

菌類活用領域としてまず取り上げられたのは石油等による海水汚染の浄化や、CO2排出削減の領域。森を守り菌類を守ることが、大気中の二酸化炭素を地下に栄養として保存する自然のシステムの構築につながる。

そもそも菌類は植物と動物の間とも言えるような存在で、植物のおよそ6倍である150万種、その内の2万種がキノコを作る。森の地底にはどこにも菌糸体が蜘蛛の巣のようにネットワークとして張り巡らされていて、菌根のネットワークが植物の声をリレーして栄養を送り合う。森の木さえ分解し、命を育む土壌を作る菌類。分解は死や腐敗をもたらすだけでなく、次の始まりをも作る。

最も興味深かったのは、民族薬理学者デニス・マッケナのキノコを食べた類人猿が進化したとする説。200万年前、異様に短い期間に脳が爆発的に進化(脳皮質が3倍に)した理由の1つとして幻覚成分のあるキノコの喫食があるという話だが、このドキュメンタリーではそれが詳しく解説されている。

話はこうだ。ミナミシビレダケは共感覚(シナスタジア)をもたらすことで知られる。共感覚とは1つの感覚が別の感覚を呼び起こすことで、例えば”色が聞こえる”や”音を見る”といった複数の感覚が重なり合うこと。(そしてここが一番面白かったパートだが…)言語こそがシナスタジアの産物で、つまり元々は意味を持たなかった只の”音”が”意味を帯びた音”になるというシナスタジア的な展開が言語の生成と理解につながり、その言語の獲得によって外界から受け取る情報量が拡大、シナプス伝達に影響して脳の巨大化がもたらされた、とのこと。ちなみに、キノコを食べる霊長類は現在でも23種いるらしい。

他にも、第二次世界大戦下において、人体のバクテリアを殺す菌糸が英米にはあったためペニシリンを開発して負傷兵の治療に用いることができたが、独日はなく、それが勝敗を分けたという話。森は感染症と戦う菌類の宝庫で、国防の観点からも森を保護するべきだとする視点は今こそ真剣に考えられるべきだ。

また、70年代に(社会の敵と国家権力より見なされることで)ストップしてしまったサイケデリック研究/幻覚剤の医学的研究について。キノコから取られるシロシビンは神経新生を効果として持ち、認知機能の回復や、アルコール依存症の改善、鬱病などの改善にも役立つという。マイクロドージング、あるいは1錠で幸せになってしまうため、医薬業界としても莫大な利益を生むビジネスではなく、見直しのインセンティブが働かなかったという話も興味深い。

また、いつぞや北米のミツバチが絶滅の危機を迎えた際にも、蜂がウイルスと闘うを助けるのに菌糸が用いられたとのこと。最近では宗教指導者とのプロジェクトも進んでおり、カワラタケにはステージ4のガンを克服をする事例もあるという。自分は父親をガンで失っているが、菌類によって助かる可能性もあったのだろうか...等と考えてしまった。
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