高橋洋監督が傑作と推すシャブロル監督の中期作。フランスの地方都市を舞台に副市長(ミシェル・ピコリ)と市長の妻(ステファーヌ・オードラン)の破滅的な不倫劇を描く。
オープニング、地方都市の一見何気ない風景の畳みかけが期待値をあげる。物語がシンプルなので、シャブロル監督ならではの不穏な映像表現がじっくりたっぷり味わえる。ブルジョアの汚れた純愛を名優が体当たりで演じている。対して、汚れなき娘の存在が肝になっていて芝居も見事だった。
地方の閉塞性を描いた映画というと、日本だと柳町光男監督や後進の富田克也監督(空族)の作品など、中上健次的な陰惨な物語が思い浮かぶ。シャブロル監督の「美しきセルジュ」(1957)、「肉屋」(1969)、そして本作も、地方の閉塞性を描いているが印象はずいぶん違う。フランスというお国柄か“恋愛”への信念が救いに繋がっているのかもしれない。
地方から逃げる発想がなかった二人は、指輪ではなく手錠で婚礼の儀を挙げた。