カツマ

オール・マイ・クレイジー・ラブのカツマのレビュー・感想・評価

4.2
若者よ、彼方を目指せ。人生は冒険のようにロマンチックで、行く果てのない旅のように美しい。繋がりゆく世界、広がる地図。閉ざされた扉が開け放たれた時、父と子の一世一代のロードムービーが喜劇のように幕を開けた。出会いと別れ、日の出の気配。いつまでも忘れられない、その荒野の道はどこまでも伸びていた。

今年はコロナ禍の影響で中止となったイタリア映画祭がオンラインという上映へと形を変えて大復活!無料上映もされた選りすぐりの新作3本の中から、この実話を元にした父と息子のロードムービーをセレクト。イタリア映画にお馴染みの名優が演じる個性豊かなキャラクターたち。彼らが国から国へと転々と旅をしながら、それぞれに成長を刻んでいく物語である。ダメ親父と自閉症の息子が紡ぐ先の見えないボヘミアンな毎日が、いつしか朝の陽射しのような光へと変わる。

〜あらすじ〜

シンガーのウィリは放浪の旅をしながら歌い歩く、不安定でその日暮らしの生活を送ってきた。そんな彼には息子が一人いるのだが、ウィリは産まれたばかりの息子の前から逃げ出し、実に16年間も音信不通のままであった。
息子ヴィンセントは自閉症により、自分の感情を上手く言葉にすることができない。母エレナはそんなヴィンセントを献身的に愛するも、どこかストレスに感じてもいた。ヴィンセントは養父マリオには心を開いていたせいもあり、エレナは徐々に焦りと苛立ちを隠せなくなっていた。
そんな折、ヴィンセントと会ったこともないウィリが突然、エレナたちの前に現れる。エレナは当たり前のように彼を追い返すも、翌朝、ヴィンセントはウィリの車の荷台に乗って出て行ってしまった。期せずして、ヴィンセントと共に旅に出ることになったウィリ。最初はギクシャクするものの、何故か二人はすぐにウマが合うようになり・・。

〜見どころと感想〜

嘘みたいな本当の旅物語。基本的にダメ人間の主人公が実の息子と旅をするも、意外にも二人のテンポはバッチリで、そのせいかコメディ要素も強い楽天的な側面を持っている。しかし、同時にそこにはオブラートに包まれたかのようにシリアスなテーマを内包しており、特に国境を越えるシーンなどに顕著に見られた。最初は息子の成長物語なのかと思ったが、実は息子を通して大人たちもそれぞれに人生の道を模索し直すかのような、旅立ちのドラマとなっている。それぞれの心の病みを透かせながら、思いのほかマイペースな心情はユラユラと揺れている。

主演は『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』でお馴染みのクラウディオ・サンタマリア。彼は非常に魅力的な歌声を持っていて、本作での歌唱も地声をそのまま披露してくれている。母親役のヴァレリア・ゴリーノは最近のイタリア映画には欠かせない名女優で、彼女の演技は基本的にハズレがなく、物語に重要な芯を通してくれる。息子役のGiulio Prannoの自閉症の演技は素晴らしかったが、彼は他の作品での出演が見当たらず、今後の新作映画への出演が楽しみだ。

そして最後に言及しておきたいのは今作を彩る音楽の数々。サンタマリアの歌声の雄大さ、そして歌曲としての抱擁力が今作のラストを美しく飾り付けてくれるだろう。エンドロールへと流れ込むタイミングで漂ってくるあの歌をまたどこかで聴けたら嬉しいと思う。歌声に乗せるように、この物語は我々の視界の先へと目指して漂い続けていくのだから。

〜あとがき〜

まずはオンラインという形で復活を果たしてくれたイタリア映画祭に万感の意を表したいと思います。毎回のように参加している映画祭がこうして維持されたことが何より嬉しかったですね。

そして、この作品。実は中止になったイタリア映画祭2020のリストには入っていなかったとのこと。復活の余波で日の目を見たという、公開まで数奇な経路を辿った映画です。イタリア映画らしい笑いもあり、男同士の友情物語のようでもあり、最後には忘れ得ぬ余韻を残してくれる作品でもあります。全国公開に漕ぎ着けてくれたら、、と思いますので、配給会社の人の目に止まってくれたらいいなと思いますね。
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