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i-新聞記者ドキュメント-のkのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

情報量が多いため字幕付きで鑑賞。2021年に観てもこれが現政権のやってきたことなんだなあと呆れかえると同時に、当時の菅官房長官が現総理であること、声を上げる人たちを取り巻く環境が何一つ変わらないことに失望感覚えた。裁判を終えて出てきたときの、伊藤詩織さんのショックで凍りついたような泣き顔が忘れられない。
沖縄の基地問題、本作を通じて現地の人の声を初めて聴いたように思う。森友学園の教育勅語、実際に園児たちが舌足らずな声で群読している様を見てドン引きした。映像の力はあまりに強くショッキングだ。そこにペン一つで切り込んで読み手に伝えねばならない新聞記者たち。

ひたすらフラストレーションが溜まる本作だが、アニメーションでアメコミ風に菅 VS 望月、警官 VS 森監督を描いて、無理やりフラストレーション打破する終盤は笑った。戯画化しないと耐えられません!フィクションならこういう風にカタルシス作るよね!って。そう、これが欲しかった(しかし現実にはヒーローは現れない)。

カメラ仕込んだメガネで裁判を撮影して、望月記者に猛烈に叱責される場面も面白い。どちらが撮られてる側なんだろう、どちらが取材質問されてる側なんだろう、と構図がひっくり返る場面が幾つもあった。菅官房長官への質問よりも、そこにかえって望月記者の食い込み力を強く感じた。

望月記者が「一番きつい」と漏らしていた社内バトル。上司として長く映されていたのが知人で、所属とか場所で、人って全然変わるよな~と思いながら観ていた。お蔵入りになった質問遮りの件の「視点」原稿、「王様、裸ですよ」という痛烈な皮肉で締められていた(これは載せられないという媒体の姿勢もわかるし、記事として出したのは正解だったと思う)

安倍政権支持派と反対派の地獄絵図の中、望月記者の困ったような表情が印象的だった。保守の男性複数人がTBSの小柄の女性カメラマンを囲んで「ちゃんと撮れよ!」と怒鳴りつける光景など、ひどすぎて見ていられない。どうでもいいが、デモのラップってなんであんなにダサいんだ。一時成功したからって何でもラップにすればいいってもんじゃないし、ラップにする意義を特に感じない(プラカード一枚にしても、そういうことが気になって仕方ないので、デモに行くことを窮する…)

森達也監督のナレーションでラストを締めたのは苦肉の策というか、本当はこういう風にしたくなかったんじゃないかなと思う。主語の肥大化に警鐘を鳴らし、一人称単数の重みを強調する。作家の覚悟を感じた。「i」でも声を上げられる社会、理想ではあるが、現日本ではあまりにも遠い。

パリの解放・自由の行進で、ドイツ兵恋人の女性たちが「丸刈り」などの私刑に遭っていたことを初めて知った。彼女たちは勝利に酔いしれるための道具にされた。いつだって弱者が標的になる。では標的にされるかもしれない恐怖を感じなくて済む人たちは幸福だろうか。誰も標的にされてはならないのに。(この辺り『丸刈りにされた女たち――「ドイツ兵の恋人」の戦後を辿る旅』に詳しそうなので読んでみたい)
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