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i-新聞記者ドキュメント-のodyssのレビュー・感想・評価

3.5
東京新聞の望月衣塑子記者に密着して、(反体制的な)新聞記者の日常を撮影したドキュメンタリー。監督と撮影(の一部)は森達也。

鑑賞して、いいところと悪いところがあるなと思いました。

いいところは、新聞記者の仕事ぶりが伝わってくるところ。
その点で、先に公開された(しかし望月記者なども関わった)フィクション映画『新聞記者』よりはるかに優れています。
何しろフィクションのほうでは、新聞記者が情報収集のためにネットばっかり見ているという有様で、明らかに映画制作側が新聞を日頃読んでいないか、少なくとも新聞記者の仕事について何も知らないことが明白だったからです。

この映画は新聞記者の活動を具体的に描いているという点で、フィクションの『新聞記者』とは一線を画しています。
もちろん望月記者はネットばっかり見ているような真似はしていません。当たり前ですけどね。

また、作中取り上げられている問題でも、うなずける部分は一定程度ありました。
例えば沖縄の基地問題。といっても森達也氏が最後に言ってしまっている(ここはダメなところだと思う)ように「基地全廃」を主張することではなく、辺野古への移転や自衛隊の基地建設に際して不明瞭な点や住民に対する約束破りなどが存在するという指摘です。

或いは記者クラブでの、質問制限や官僚による妨害行為もそうです。

他方、森達也氏にしては「?」だなと思えたのは、一定の党派に属する人間しかうなずけない箇所もあったこと。

また、記者クラブの問題点(特定の新聞社に所属しないと質問はもとより、その場所に入ることすらできないという点)はかねてから上杉隆氏らにより指摘されてきたところです。つまり、官邸や官僚だけが悪いのではなく、特権を温存してきた記者や新聞社側にも責任がある。森達也氏は残念ながらそこにまで踏み込んでいません。

というわけで、長所と短所の両方があるドキュメンタリーですが、一見に値する作品でしょう。
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