かわさき

WAVES/ウェイブスのかわさきのレビュー・感想・評価

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
4.0

なんと、本作でルーク扮する役者は『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でパトリックを演じていた彼だったのか…。いやはや、素晴らしいアクターになられましたね。素朴なまま大人になった感じだけど、スクリーンの中であの雰囲気を保ち続けられるのは間違いなく才能。アカデミー助演男優賞ノミネートは伊達じゃない。近い将来、あらゆる監督が彼を起用したがる未来が見える(まぁ既にそんな状況なんだろうけど)。

「ミュージカルを超えた“プレイリスト・ムービー”」ってキャッチコピーはいかにも代理店仕事って印象を受けるけども、(とりわけサブスク以降の)スマホユーザーが音楽を発見する時の感覚を端的に表していると感じる。音楽とリスナーの距離感が近いからこそ、アーティストの切実な叫びは我々の日常に影響し、旋律やリズム、あるいは歌詞が「生活のサウンドトラック」として機能する。これ見よがしに貼られた『The Life Of Pablo』(カニエ・ウェストのアルバム)のジャケット・ポスターにも、我々は大いに共感するというわけだ。

…なもんで、前半部のクライマックスで「I Am A God」が流れるやいなや、凄まじい緊迫感を持ってタイラー(主人公)の行動を追体験できてしまう。それがあたかも“そこで起きている”かのように。そして、タイラーがまるで自分であるかのように。

しかし本作における音楽は、単なる緊迫感を煽るだけの存在ではない。先述した“『The Life Of Pablo』のポスターを貼る”という行為に共感を覚えるように、言外でセンスを共有する「言語」としても機能するのである。フランク・オーシャンの『Blonde』に救われた人、あるいはAnimal CollectiveやRadioheadが抗うつ剤だった人にとって、本作は言葉より誠実な言語として立ち現れる。
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