鴨橋立

リスタートの鴨橋立のネタバレレビュー・内容・結末

リスタート(2020年製作の映画)
1.0

このレビューはネタバレを含みます

映画における主人公は作者の分身とするなら主人公の敵は作者の思う敵(悪)になっている、この敵の置き方が世間、SNS(ちょっと前だったら心無いマスコミだった)が品川監督の思う敵なんだと思う。


お笑い芸人品川庄司の品川ヒロシ監督の長編5作目…かなり思うことがある、が、その前に良かったところ。

HONEBONEのEMILYさん演じる主役の未央、演技未経験ということで、実際の自分との間にかなりギャップがあるのであろう序盤のアイドル演技こそかなりの違和感を感じたものの中盤以降のやさぐれ感はすごく自然で良かった。ここは品川さんのあてがきも上手くハマっていたと思う。

逆に経験豊富な役者さんの底力を存分に感じたのは主人公のお母さん役の黒沢あすかさん。少ない出演シーンながら主人公とサシでの会話シーンでは圧倒的な存在感を見せつけている。(ここの撮影/編集が半端なのがすごくもったいない)

で、肝心の品川監督の脚本と演出なんだけど、とにかく映画の中の全てがガサツでげんなりする、ガサツな青春、アイドル、ドルヲタ、SNS、スクープを狙う記者、東京、田舎、、、

地下アイドルなんてこんなもの、地下アイドルを追いかけてるファンなんてこんなものという表面的な侮りのようなものを感じた。

主人公が東京から逃げ帰る事件にしても、最初からなんかやりそうな人が案の定なんかやるっていう面白味のない展開でまあ意外性もないし、世間が世間がと言うわりに主人公に対して直接的に害を与える人がどう見ても普通の人じゃない見た目に誇張されてるので「一般市民」という説得力がない。

SNSの件とかああいうのって普通の人がやるから怖いんじゃないの?
あいつ見た目がどう考えても目立ちたがり屋じゃん。

北海道に帰ってからも田舎が素晴らしいと言いたいために都会で一生けん命働いてる人を貶めるのは個人的にすごく気に食わない、五反田で働くサラリーマンに謝ってほしい。

ブラックマヨネーズの小杉さん演じる田舎の中年カップルも嫌なカンジの人がそのまま嫌な人という表現の浅はかさがうかがえる、品川さんが今まで撮ってきたジャンル映画的なものだったらそれでもかまわないんだけど、この手の小さい映画でこういう表現はちょっと考えてなさすぎに思える。

主人公にしつこくつきまとう週刊誌の記者チームのカメラマンのほうはさっきの中年カップルの逆で娘が手術をしなければいけないほどの病気らしい、という重すぎる事情でもない限りああいった職業を認めないというような自分勝手な価値観を感じた。

正直ここを蛍の撮影にこだわる描写だけにとどめておけば写真を志しながら夢やぶれて現在の職業に身をやつしているように見えて主人公の鏡像にも思えて好感がもてたんだけど。

そういうワビサビが本当に足りない。

そして主人公の歌という奇跡一発で逆転していく感じも随分と都合の良いものに感じた、なにより主人公は外的な要因に傷つけられはしてるものの自分の歌に関してだけは一貫して挫折してないので、そこでの成長や反省は特に無く、

要はもともと才能を持ってる主人公が家族や仲間に応援されて憎き世間をギャフンと言わせる…というような選ばれし者の話になっていて、努力や執念が欠如していて魅力を感じない。(強いて言うなら自分を傷つける世間憎しという執念?)

まあこういう作り手の思う嫌なところだけを抽出した映画内の敵を相手に自分(主人公)の正当性だけを主張するという構図、「映画 えんとつ町のプペル」とまったく一緒だった。

(クラウドファウンディングで作られた今作で西野さんがクラウドファウンディングとは、を説くあたり、品川さんは西野さんやプペルを本気で良きものとして扱っている気がする。こわい。)

また、この過去を省みることなくただただ再始動、これは品川監督そのものとも言えることで、

今作に関してとりあげた映画ポッドキャストの生配信の比較的序盤で品川監督が「見てます」とコメントを寄せるという出来事があった。

映画の感想を語る配信で感想を言う前に見てますってアピールしてくるのはまるで「悪評を言うなよ」と監視してるようなもの(まあ元から出演者が知り合いということで映画をけなすつもりはなかったのかもしれないけど)。

これは自分の映画を酷評したライムスター宇多丸さんのラジオ、ウィークエンドシャッフルに出演したいと申し込み宇多丸さんから軽くいなされた時のことや、南海キャンディーズの山里さんのラジオに乗り込み動揺する山里さんの前で過去のいざこざにたいしてひたすら「自分は悪くない」と言い訳しつづけたことを思い出す。

省みず考えずただただリスタートしただけ。


映画監督としての品川さんの作品にはちょっと思うところがあって、

宇多丸さんの映画評を聞いて映画を多く見るようになった身として宇多丸さんが酷評したからという理由で作品をたたくのはなんとなく自分が無い気がして、

なんならちょっと甘め評価してしまう倒錯した自意識があった、

でも今作は自信を持って自分の言葉で言える、嫌いな映画です。
鴨橋立

鴨橋立