しの

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONEのしののレビュー・感想・評価

3.9
毎度同じパターンというシリーズのマンネリズム、それを映画という決められた筋書きでやること、膨大なパターンを学習し支配したものが勝者になっていくこれからの世界を受けて、じゃあそこに抗い得る「映画の価値」って何なのか? という問いを明確に感じた。

話がふわっとしてる感じはあるが、それは話が無いのではなくて、立ち向かう敵自体が人間目線で「よく分からんけど演算の結果そうなってるらしい」としか認識できない人智を超えたテクノロジーだからだと思う。それを支配しようとするか、支配されにいくか、破壊するかということで、むしろドラマを丁寧に描こうとしたからこの長尺になったのだと思った。

本作の特徴として、アクションと同じくらい会話のシーンが印象的というのがある。三つ巴+αの立ち位置を各々がひたすら睨み合い示し合う→アクションでそれが分裂して弾ける……が繰り返される構成。アクションだけでなく、超割り切った説明パートや超矢継ぎ早なセリフの応酬にわりと時間をかけている。要は、本来ならアクション間の繋ぎでしかない部分で何とかちゃんとしたドラマをやるという離れ業をやろうしているので、ここまで(見方によっては)前衛的な語り方になっているのだ。だから観ていて「映画として成立している/してない」の境界上に常に居る感覚があった。

というかアクションだけ見てしまうと既視感あるシーンも割と多かったりする。当然凄いことをやってるし、焼き直しというよりアップデートにはなっているが、やはり超新鮮な何かではない。だから、実は見世物というよりドラマを進める要素として見た方がグッとくる作りだと思う。

そのドラマとは、言ってしまえば「こんな無茶苦茶なことやるのは、やりたいからか、やらされてるからか?」という問いに尽きる気がする。悪役はテクノロジーを人間より上位に置いているので、ひたすら展開に身を委ねる。対してイーサンは、ひたすら自分で選択して行動しようとする。しかし劇中でも触れられる通り、イーサンに関わる者は身を危険に晒され影に生きざるを得なくなっていくという「パターン」がある。つまりシリーズへのメタ的な問いかけであり、ひいては映画制作への問いかけでもある。毎回死にたがりアクションを見せてるだけなのか? と。

ここに制作陣のスタンスが垣間見えた。そりゃ映画なので見世物ではあるし、基本的には設定の通り進んでいくものではある。だけど僕らがやっていることって、それだけではないんじゃないか? というトム・クルーズの信念と願いを感じたのだ。そこには選択があって、ドラマがあって、アクションがあるはずだと。その姿勢が、『フォールアウト』以降顕著になってきたクリストファー・マッカリーとの即興的な映画作りメソッドと呼応している気がした。設計された軸はあるが、全てが定められているわけではなく、体を張って演じる身体反応がそこから逸脱する何かを見出させてくれる。

そんな闇雲な手探り(=デッドレコニング/推測航法)のなかで、パターンの集積に身を委ねるのか、パターンを支配して操作しようとするのか、あるいは闇雲ながらもその中に輝く信念や選択を映画に記録しようと足掻くのか。そういう三つ巴の構図に思えてならなかった。

そして後編ではこの辺りの問いへの回答が描かれるのだろうが、自分はこの壮大な前フリの時点である種の回答になっていると思った。というのも、やってることは「鍵をスられた!」「よしスり返した!」の繰り返しでしかないわけで、そこに163分没入させる力って何か? と考えると、自ずと答えは出るだろう。

従って、個人的に今回はアクションどうこうよりも、「たったそんだけの話を大真面目に見せられる”映画“ってメディアは一体なんなんだよ?」という驚きのほうが強かった。正直、M:Iシリーズとしてどうかという観点だと、まぁちょうど中間くらいの順位かなと思ってしまうのだが、しかし本作単体で見たときに「これからの映画の意義」みたいなものを模索し訴えかけようとする姿勢は評価したい。

ただ、そういうテーマを抜きにしても、グレースの描き方はもっと何とかならなかったかと思う。大して背景が語られないのに何度も同じような展開で逃げていくのがややストレスだった。その代償としてあのキャラクターがああなってしまうのも、「そういうパターン」として自覚的にやってるのか否かが疑問だ。ただ、そんな彼女にイーサンがクライマックス手前でかける一言には目が潤んだ。イーサンが居なかったら超ヘイトが集まっていただろうなと思う。

とはいえ、難しい話は抜きにしても、「半分オモチャみたいな見た目の鍵を大の大人が大真面目な顔で163分ずっと奪い合うだけの話をなぜか食い入るように観てしまう」という体験は確かに得られるわけで、これは非常に贅沢な体験だと思う。見方によってはファーストシーンからいっさい物語が進展していない。しかしそれだけではない何かがある。そこにこそ本作が投げかける「問い」への回答があるように思えるのだ。

※感想ラジオ
【ネタバレ感想】これぞ未来の映画?トム・クルーズによる前人未踏の問いかけ『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』 https://youtu.be/8qzCXIj5SjU
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