なべ

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONEのなべのレビュー・感想・評価

3.0
 なんかミッション・インポッシブルって紅白歌合戦みたい。とっくにオワコンなのに、潤沢な予算と派手な演出で騙し騙し続けている。こちらもなんとなく恒例だから観てるけど、おもしろいかおもしろくないかでいうと…。
 オープニングで描かれたロシアの潜水艦・セヴァストポリの悲劇。これ最高!攻殻機動隊の人形使いかスカイネットか知らないけど、このままSF潜水艦映画として続けてくれた方が絶対よかった!
 絶対探知されないはずのセヴァストポリが米潜水艦に探知され、攻撃を受ける。この時の慌て様がいいのよ。まさか信じられないと艦内に走るショックと緊張とパニック。慌てて追撃用の魚雷を発射し、そして衝撃に備える。潜水艦映画でお馴染みの着弾を待つ緊迫のシーンに息をのむ。沈黙と汗と固まる姿勢(なぜか全員上を見る)が潜水艦映画には必ずある。お馴染みだけど最高の描写。こんなシーンからミッション・インポッシブルが始まるなんて。最高かよ。
 
 沈んだ潜水艦にあったのは自己進化型のAI「エンティティ」。というわけで、ここからあとはいつものミッション・インポッシブルになる。
 エンティティの鍵を巡って、武器商人や情報機関、コソ泥などを巻き込む奪取合戦が始まるって具合。ストーリーは“鍵を奪い合う”これだけだ。顔認識システムの撹乱、スリ、カーチェイス、崖からのジャンプ、暴走するオリエント急行の屋根の上での格闘。ドキドキはするけど、いずれもどこかで見たことのあるアイディア。結局は鍵を追っかけてるだけという、目的と手段のアンバランスなアクションがひたすら続く。
 アクションのためのアクションなので、その状況に至る経緯がとってつけたような感じ。カーチェイスをおもしろくするために手錠で繋がれるイーサンとスリ(イーサンなら手錠など難なく外せるでしょ)、変装用マスク製造マシンの故障(エンティティの仕業かもしれないけど)、わざわざ鍵の取引場所にオリエント急行を選ぶバカさ加減(リスク管理ができない武器商人とCIA)と、強引な成り行きゆえ、なんでこんなところでこんな事態に陥ってるんだっけ?と何度も思わされた。
 映画をただ消費したいだけの流される観客は全然気にならないかもしれないが、ストーリーが大事な人は、バカ過ぎる展開に引く。これっておもしろいのか、そもそもおもしろいってなんだっけ?と。結局、この話で前後編に分ける意味がよくわからなかった。
 相変わらず捨て身のアクションを連発するトム・クルーズはすごいが、顔が時々むくんでとっちゃん坊やみたいになってる。もうよくね? チームリーダーとして全体を指揮する役に移っても。でときどき、アクションしなければいけない事態に陥って、フーフー汗をかきながら老いと戦うイーサンの方がぼくは見たいよ。
 そろそろ行き当たりばったりなアクションはやめて、原点回帰した緻密なコンゲームのミッション・インポッシブルが観たい。絶対絶命のピンチを観客をも騙して回避するミッション・インポッシブルが観たい。チームワークで不可能指令をこなすミッション・インポッシブルが観たい。
なべ

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