幽斎

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONEの幽斎のレビュー・感想・評価

4.0
おはようフォロワー諸君。今回の君の任務だがミッション:インポッシブルは名作と呼ばれる「スパイ大作戦」リメイクで有り、長い歴史には多くの葛藤が有った事も知るべきである。映画でも試行錯誤は続き、更なる続編も用意されてるが、万一このレビューが参考に為る、或いは否定する意見が出ても当局は一切関知しないので、そのつもりで。なお、このレビューは自動的に消滅しない、成功を祈る・・・!!MOVIX京都で鑑賞。

恒例のシリーズ時系列
1966年 4.0 Mission: Impossible 1st.season「スパイ大作戦」全ては此処から始まる
1967年 5.0 Mission: Impossible 2nd.season Peter Graves登場
1968年 5.0 Mission: Impossible 3rd.season Martin Landauと共に黄金期
1969年 4.2 Mission: Impossible 4th.season Leonard Nimoyに交代
1970年 3.8 Mission: Impossible 5th.season Lesley Ann Warren参加
1971年 3.6 Mission: Impossible 6th.season Greg Morrisはシリーズ完走 
1972年 3.6 Mission: Impossible 7th.season Peter Lupusもシリーズ完走
www.youtube.com/watch?v=M3FyHUbGu9M

1988年 4.0 Mission: Impossible「新スパイ大作戦」Phil MorrisはGreg Morrisの息子
1989年 4.0 Mission: Impossible「新スパイ大作戦」「V」のJane Badler参加
www.youtube.com/watch?v=bpflVvtbzp8

1996年 1.0 Mission: Impossible リメイク「スパイ大作戦」冒涜して始まる
2000年 3.0 M:I-2 オレ様ムービー、チームワークは皆無
2006年 3.8 M:i:III 「スパイ大作戦」への回帰
2011年 4.2 Mission: Impossible Ghost Protocol 「007」オマージュ
2015年 4.6 Mission: Impossible Rogue Nation 「スパイ大作戦」ファンも納得
2018年 4.0 Mission: Impossible Fallout スパイに家族愛を加味した新機軸
2023年 4.0 Mission: Impossible Dead Reckoning Part One 本作
2025年 Mission: Impossible タイトル未定に変更

「スパイ大作戦」3年連続エミー賞ドラマ部門最優秀作品賞。原案Bruce Gellerエミー賞ドラマ部門脚本賞。テーマ音楽Lalo Schifrinグラミー賞。ジム・フェルプス役Peter Gravesゴールデングローブ男優賞。ローラン・ハンド役Martin Landauゴールデングローブ男優賞。シナモン・カーター役Barbara Bain 3年連続エミー賞最優秀主演女優賞。因みにMartin LandauとBarbara Bainは実生活でも夫婦。

いやぁ~やっと書けるよミッション:インポッシブルのレビュー(笑)。私が最初にスパイ大作戦を見たのは父親のレーザーディスク。DVDが出るまでソニーのプレーヤーも有った。私は父親の影響で子供の頃から推理小説を読むか、映画は「007」ドラマは「スパイ大作戦」再放送と言う子供時代を過ごした。古くても面白くて知的な番組に興奮した事を今でもハッキリ覚えてる。複雑なプロットをヒーローでは無くチームワークで遂行するレトリックは、視聴者のイマジネーションを搔き立てる優れたコンセプトの結晶と言える。

7年間シリーズは続きテクノロジーの進化に併せ新シリーズも制作。日本では吹替に依る力は強く、ジム・フェルプスは007 Sean Conneryの若山弦蔵。ローラン・ハンドは銭形警部の納谷悟朗。シナモン・カーターは参議院議員の山東昭子。指令の声は「笑ゥせぇるすまん」大平透。Lalo Schifrinの五拍子のテーマ曲が、また素晴らしい。Monty NormanのJames Bond Themeと並ぶ名曲は現在でも使われ、私のXperiaの着信音にも(笑)。確立されたプロットは何度見ても面白いが、私と同じ人物がアメリカにも居た。

Tom Cruise 61歳、最後のハリウッド・スター。彼は子供の頃スパイ大作戦に釘付けに為った一人で「トップガン」以降、キャリアを重ねる度に与えられた役では無く、自分がやりたい役へステップアップ。自身のエージェントを務めたPaula Wagnerと共にCruise/Wagner Productionsを設立。子供の頃に夢見たスパイ大作戦のリメイク権をパラマウントから獲得、初めてプロデューサーとして制作。此処までは良いんだよ。

脚本を「ジュラシック・パーク」David Koeppと「ザ・ファーム 法律事務所」コンビを組んだRobert Towneに任せた。しかし、仕上がった脚本はスパイ大作戦をTomに適合させる為、IMFリーダーのジム・フェルプスを名優Jon Voight、変装の名人ローラン・ハンドをイーサン・ハントと言うオリジナル・キャラクターとしてTomが。シナモンはEmmanuelle Béart。グレッグ・モリスはVing Rhamesに置き換えられた。スター俳優に成長したTomはスパイ大作戦のアンサンブルキャストでは目立たない。

私はリメイクを見てTomが目立ちたい為にリーダーのジム・フェルプスを首謀者に仕立て抹殺したと怒り心頭。ローラン・ハンド役でオスカー俳優Martin Landauも「最初の脚本はチーム全体を1度に破壊するもので私は反対した。スパイ大作戦はアクションでは無く心理戦、自分のキャラクターを自殺させるなんてしたいかね?」共演を拒否。リメイクを楽しみにしてたPeter Gravesは「こんなのスパイ大作戦じゃない!」途中で劇場を飛び出す。Greg Morrisも「フェルプスのキャラクターにうんざり」公然と批判した。

スパイ大作戦とは、心理的ロジックで任務をリンクさせ、危機を脱する。1作目はBrian De Palma監督らしい無機質が融合する複雑なプロットで、単体のスパイ映画としては秀逸と思うが、コレは飽く迄スパイ大作戦。違うのであればSchifrinのテーマ曲とタイトルは返上すべき。パラマウントは、オリジナル・メンバーの批判とドラマ版ファンの反感を憂慮してタイトルを「M:I-2」に変えてシリーズ化。Tomはパラマウントが用意した音楽を却下、Schifrinのテーマ曲を使うべく、妻のNicole Kidmanの勧めでDanny Elfmanに変更。当初は Kidmanも出演が検討された。

オレ様ムービーはパラマウントが仕掛けた事が後に判明するが、TomはJ.J. Abramsを監督に招いてスパイ大作戦のストロング・ポイント「チームワーク」の復活を託した。初監督のAbramsはJohn Woo監督の演出を否定。Simon PeggとJeremy Rennerを加えてIMFがチームと言う正しい姿に変えようと試みた。プロット的には「007」をオマージュする事で作品を転換。私もミッション:インポッシブルを認めるのは「M:i:III」から、「ゴースト・プロトコル」からMission: Impossibleのタイトルも復活。ゴースト・プロトコルの意味もスパイ大作戦でお馴染み「例によって君もしくは君のメンバーが捕らえられ、或いは殺されても当局は一切関知しないから、そのつもりで」と言う幽霊スパイを英語に訳したモノ。Tom、誤解して済まなかった。

シリーズ最高傑作「ローグ・ネイション」完成。作品毎に監督を交代したが、初めてChristopher McQuarrie監督が続投して「フォールアウト」制作。シリーズは完全にTom主導で制作。ビルからビルへとジャンプするシーンも誰も止められない(笑)。案の定骨折して撮影は中断するが、本人は至って陽気「大丈夫、休んでる間も皆の給料は払うから」。パラマウントから「トップガン マーヴェリック」創りたければ、ミッション:インポッシブルをあと2本制作する事を提示され「面倒くさいなぁ、じゃあ2本撮りで」(笑)。

前作「フォールアウト」家族愛をテーマに妻役Michelle Monaghan再登場、ソレは実娘Suri Cruise 17歳の成長に要因が有る。孤独なスパイと家族の関わりを描く事に違和感を感じる方も居るだろうが、本家James Bondも登山事故で両親を亡くした過去が「007 スカイフォール」母親に見捨てられた息子とリンクした。一転して本作はスパイ小説への原点回帰テクノ・スリラー(ハイテクと言う意味では無い)。オープニングはテクノ・スリラーの大御所Tom Clancy原作「レッド・オクトーバーを追え!」オマージユ。最初はロシア語で英語の字幕が付くが重要な「セヴァストポリ」フレーズから英語に変わり、字幕が消えたのも同じ演出。スパイ映画の原点に立ち帰ると冒頭で宣戦布告する。

1作目以来のIMF元理事でCIA長官キトリッジ役Henry Czerny登場。彼もTom Clancy原作「今そこにある危機」ジャック・ライアンと対立するCIA副長官を好演。冒頭で「私は貴方が動揺してる事が分かる」と言うのは、1作目と同じセリフでシリーズの連結を象徴。Tomは「動揺してない」違う台詞で成長も裏付けた。アベンジャーズの都合で欠席の続くJeremy Rennerが、次回作でドウ出て来るか見物。黄色いフィアット500を追い掛けるシーンは「007 ユア・アイズ・オンリー」のオマージュ。

「スパイ大作戦」繋がりで言えば、Tomを追うShea Whighamのブリッグスは、オリジナル1st.seasonでリーダーを演じた渋い二枚目Steven Hillが演じた「ダン・ブリッグス」。初登場Hayley Atwellを追うPom Klementieffのパリスは、オリジナル4th.seasonのミスター・スポックLeonard Nimoyの役名「ザ・グレート・パリス」。ローラン・ハンド役Martin Landauは名前の通りスリと変装の名人、Atwellのキャラクターの由来。役に立たないトリヴィアでは、IMFへ参加を認められた新人はAlex James-Phelps、オリジナルのリーダーの名前はジム・フェルプス。私の好きなCary Elwes出演は嬉しかったけど、足首じゃなくて喉なのね(笑)。ロシア原潜から浮遊する乗組員の中に、酸素マスクを着けてる者が居たので、続編への重要な伏線と思われる。

本作の敵は「AI」。続編制作遅延もレビュー済「エスター ファースト・キル」コメント欄で触れた米映画俳優組合SAG-AFTRAのストライキの理由も「AI」。映画が配信サービスへ移行するのは時代の流れだが、問題はギャラの不透明さ。配信側は劇場とは異なり、視聴回数を未だに明らかにしない。AIでエキストラが無限に作られれば、俳優は死活問題に陥る。我らがTomがCOVIDで劇場離れが著しいトラウマを「トップガン マーヴェリック」の配信を断固拒否して見事に払拭してくれた。彼はスクリーンの中でも現実世界でも戦ってる事を忘れてはイケない。

「テクノスリラー復活!」ヤッてる事は分かり易く(ソレでも伏線のルートは6通り有る)、「ワイスピ」同様おバカ映画寸前(褒めてます)、普通に面白いので、考察は要らない様に見えるが実は違う。京都の大学で情報通信工学を学んだ友人に依れば、本作の敵「Entity」霊体。デジタルはアナログを傍受できないと台詞に有るが、此れは誤り。ルーサーの為に補足するとアナログを再変換するハードウェアが必要、ソレはAIには作れない。

監視カメラの映像すらリアルタイムで消す事が出来るAI。Tomが見失うシーンの意味とは、スパイ映画のお約束デジタル・ガジェットが今回は使えないと言う事。ベンジーが何時もの様に衛星をハッキング・・・はダメなのだ。ロシアが情報のやり取りをネットからアナログの手紙に移行したのは正しい選択。藤井聡太八冠の様にAIを熟知してれば無敵、ルート解析では人間は勝てない。しかし、人間にはAIが予測出来ない「出たとこ勝負」が有る。人間臭い「失敗しても後悔しない選択」失敗の確率80%ならAIは絶対に選択しない。しかし、成功の確率20%に賭けるのも、また人間なのだ。

ロシアの推測航法にしてタイトル「Dead Reckoning」の意味は潜水艦が過去に航行した経路をAIが予測、自分の位置を捕捉されないステルス航法と、イーサン・ハントがIMFに入る理由に為った隠蔽された過去の「経路」が明らかに成るダブルミーニング。「007 カジノロワイヤル」ボンドがMI-6に入る過去を辿る手法と重なる。Reckoningは直訳すると計算だが、アメリカ英語では「罰、報いを受ける」だからDead「死」なのだ。

盲点かもしれないが「スパイ大作戦」は決して首謀者を殺したりしない。その上でカタルシスが味わえるインテリジェンスな爽快感が作品の醍醐味。リーダーのPeter Gravesは2010年3月83歳で此の世を去った。もし本作を見たらTomを「よくやった」喜んで褒めてくれたかもしれない。

上映時間シリーズ最長163分、迷わずトイレに行く事をお勧めする、成功を祈る!。

【続報】
シリーズ第8弾の全米公開日が2024年6月28日から2025年5月23日に延期。タイトルもDead Reckoning Part Twoから変更。レビュー時点で全く見通しは立たないが、今の状況はAIキャストより配信で出演者にギャラが支払われない点に移る。アマプラやNetflixを駆使してる方も他人事では無い。COVIDの様に劇場の空白期間が生まれる可能性も高い。今の私達に出来る事は映画は劇場で観る事(笑)。

本作と関係ない話ですが、11月10日は私の誕生日。まだアラサー前半(笑)。今後とも宜しくお願いします。
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