せいか

ガンズ・アキンボのせいかのネタバレレビュー・内容・結末

ガンズ・アキンボ(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

1.28 google tvでレンタルして視聴。

突き抜けたB級なのかと期待していたが、最初から最後まで表面上ぶっ飛んでるようには見えるけど現代へのもろもろのアイロニー織り交ぜつつきちんと話を展開させている良作だった。というか、ずっとかなり知性がないと書けない展開が続いていたと思う(組織の名前をスキズムにするとか、ああいう冒頭モノローグとか、初手からそこが隠されてはいない)。
なのでB級には当てはまらない気もするけれど、B級ではあるような気もするような、その路線狙ってるはずなのに優等生なところがあるというか、始終正気の人間が書くシナリオだったなと思った(※本作、気に入っているのですが)。

あと、冒頭のモノローグが、自分の人生のクソさを慰めるために(表面上はそれを受けてどう振る舞うにしても)何か残酷なものだとかを観るんだろ?というようなもので始まり、主人公の様子を描きながらも執拗にスキズムを鑑賞する人々の醜態も映し出していて、そういうところが本作、現実を映す鏡として機能していて、ひたすらグサグサ刺さったところとか好きだった。この映画を観ている視聴者もその群の中に溶かし込んでしまう怖さがある。
この点に関しては、例えば、視聴しながらずっと感じていたことなのでタイトルまで挙げるが、『マッドマックス 怒りのデスロード』の表面的な派手さだけでキャーキャー言っていた類の人々への、そうしてテーマを考えることもしない人々への皮肉に近いのだろうなと感じた。自分にそのつもりはないのかもしれないが、問題意識がないか上っ面ばかりで、何やらこれはバカっぽいものだと黄色い声を上げるような。
あくまで本作はそう真面目にシリアスになって観るものではないのかもしれないが、そういうようなものに対するある種のアンサー的なものをびじびし感じた。

主人公もぱっとしないプログラマーというか、少なくとも自発的に前向きには生きない人間で、その鬱憤でネット弁慶をこじらせていわゆる「荒らし」というか、そこに執着的になり、わざわざアングラ世界の生配信のコメント欄で浅い正義感を振りかざしたような大口を叩きまくるということをしてある種その報いを受けたのがことの顛末のきっかけになっている。
そのへんからも本作を見れば、強制的にデスゲームに参加させられて逃げまどう中でこうした彼が冷静に自分のそういうひどかった面を見直し、敵だった女に「(武器がなかろうと)前進するのよ!」と言われて前向きに特攻したりするようになりもするので、一種の成長譚でもある。ラストの彼女とのハッピーエンドにはならなかったところとか、夢と現実との切り離しをコミカルに描くものだったとも言える。

(補足 主人公、プログラマーなんですけど、オタク部屋表現優先したからか部屋に全く本というかそもそも紙らしい紙がなくて(プログラマー、直接仕事に関係するもの含めていろいろ読まなやってられんやろと思うのだ)、おしゃんではあったけど、妙に空っぽで、主人公がやることも怠惰に受け身でできることだけで、えげつなく内面表現しきっていたよな。そしてそういうところ含めて少なくない現代人のありさまを表現したものなのだ)

デスゲーム主催者も結局いざ自分がピンチになると小物さをとことん発揮していたり、取り巻く人々の等身大さというか、地獄の世界を自分たちで作ってる感じだったり、なるべくしてなってるクソな世界をとことん描いていたようにも思う。まともに主人公を助けようとした人たちもすごく少なかったのに、表面上では彼の死(偽装なのだが)を悲しんだり。こういうところでも大衆の喜怒哀楽するところの娯楽というものにめちゃくちゃ刃先を向けていたなあと思う。
それはともかく、主人公の同僚くん、軽薄なところはあったけど、あっさり見せしめのおもちゃで殺されたのはやるせない。視聴者を沸かせた外野だったけど、それゆえに目立ってしまって「もののついでに」主催者によって殺されてしまうのだけど、この「ついで」の残酷さよ。娯楽よ。

あと、ホームレスとの会話の中で、何かくれと言ってホットドッグを出されたところのくだりなんかも好きだった。
世界的な食糧問題に加担したくないから肉は食べたくないなどと先進的ぶったことをのたまう主人公に、世界的にはそもそも食べるものに不自由してそんな選択の余地のない人間がごまんといるんだぞというような切り返しをしていたところ。それで8カ月も前のものを彼は食う羽目になるのだが(これも食品添加物山盛りで見た目には腐らないフードへの皮肉よな)。私は食糧問題に関してはあのへんのムーヴ気持ち悪いなと思っているタイプなので、こういうの見るたびにちょっと陰気に笑ってしまうやつ。

最終的に主人公は自分がきっかけで余計に流行してしまったスキズムの他の組織も壊滅させるべく日夜戦うことになるのだが(手の銃は取ってもらって)、なんともいえないラストである。
あの組織もフランチャイズして全国展開してますよというラスト近くで明かされたものも、人間というものを露悪しているところでもあって、とにかく胸の内がわだかまるコミカルさがそこにもあったのだが。

一応、主人公がだらけきって部屋でやっていた、銃をバカバカ撃つゲームとのオーバーラップといった要素もあったことはメモしておく。主人公自身もそうしたゲームだとかと重ねつつ現実を見ているくだりがある。スマホを見ないで町を歩くのなんて久し振りだというくだりで、ゲームの世界みたいだと言葉が続くところなどもある。もはや画面の世界と現実がごちゃごちゃなのだ(その上で主人公は日々の鬱憤を画面の世界でいろいろ晴らしていたりもしたわけである)。こういうところもあくまで現代人にとっては他人ごとではないと思う。

とにかく、映画を通して世界を諧謔的にブラックユーモアで切り抜いた作品だったなあと思った次第である。
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