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キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱のSPNminacoのレビュー・感想・評価

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マルジャン・サトラビ監督なので、やはり普通の伝記映画にはならない。序盤はまるでベタなロマンティック・コメディ。マリは科学ギークとして猪突猛進(ケラケラ笑うロザムンド・パイクはいいね!)、同じくギークなピエールと「衝突」して出会い、やがて共同研究者として「融合」し、炎を背にしたプロポーズ。ノーベル賞まであっという間のスピード展開だ。私+私=「私たち」。キュリー夫妻はあたかも2つの分子(学界では異分子)が合体した化学反応。せっせと研究実験に励み、愛の営みに励み、その産物として娘たちと世紀の大発見がある。
だが、偉業達成と並行して挟まれるのが、20世紀のフラッシュフォワード。科学の進歩が未来を先取りするように、映画も放射能のもたらす功罪を先取りする。研究者は自らを危険な実験台にしてもいる訳で、常に死と接近したマリの人生は、あっさりした娘の誕生より死にまつわる描写が生々しくむごたらしい。
また、サイケデリックなロイ・フラーのダンス、降霊術、不倫など、研究と関係なさそうな要素もたっぷり。科学や論理と矛盾した物事がマリの根底で不安定な危険をはらむ。女性科学者への差別待遇だって、非論理的なのだ。
マリとピエール、ラジウムとポロニウムの「結婚」は破壊と再生の両面。「私たち」が分裂した後迷走するマリは、自分を見て育った科学者の長女と再び「私たち」になる。けれど、死(病院)を恐れ遠ざけたマリが否応なくそこへ向かうのは、危うく恐ろしい「私たち」人類の先取りなのかもしれない。
奇しくも『オッペンハイマー』とやや被りそうな科学者映画だけど、とりあえずこちらは女性視点で身体を張って呪われた因果を容赦なく見せると共に、シンセサイザー音楽やポップな科学ビジュアル、サトラビ監督ならではのケレン味が好き。
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