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American Son(原題)のLのネタバレレビュー・内容・結末

American Son(原題)(2019年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

黒人をあからさまに差別したがる白人!白人は悪者!黒人は善人なのに!なんていう野暮な設定の話ではない。差別なんかなくしてしまいたいと善意に満ちた人がいたとしても、拭える程度の問題ではないんだという、いかに根深い歴史が社会をこじらせてしまっているかを描いている映画だった。
あえて主人公の落ち度も描いていて、一方的に黒人を擁護する姿勢はないので、誰が悪い、誰は悪くない、という主張がしたいのではなく、"あなたが理解できない鬱憤を向けてくる人がいたら、こういう思いを抱えているからなのかもしれない"というヒントを共有するために作られた映画なのだと思う。

奥さんはヒステリックすぎだけど、鬱憤溜まってるところに切羽詰まったらあり得なくもない。けど観てる側をイラつかせるほどヒステリックな彼女なので、旦那さんもイラつくの無理はないという、夫婦ドラマに上手く繋げてる。熱烈な恋に落ちたはずの夫婦の関係にも亀裂を生じさせるほど、社会生活を通して浴びる感情に差がありすぎて、それが積もりに積もりすぎて、個人の心の中でどうにかできる程度のストレスではなくなってしまうこと。そのストレスから逃れるためには結局同族で集まって慰め合うようになること、だからこそ分離が引き継がれていってしまうこと、その全てを、社会情勢の説明としてではなく、登場人物たちの致し方ない心の動きとして描いているのが巧妙だった。

黒人警部の設定、リアルだなーー。。。
社会の変革なんて諦めて、腹を括って生き延びる人。大きく括ればフェミニズムでもなんでもそうだけど、意外とこういう存在が変革の足枷になるよね。こういう人たちは社会に迷惑もかけない頑張り屋さんなので責められることは何もないんだけどさ。。。

最後、余韻に浸らせる演出もなくあっけなく終わってしまうのが一層、え、、そんな、、、と思わせるのでよく出来てた。
エンディングの、The O'My'sのIdeaって曲めちゃくちゃ沁みた🥲

それにしても、お母さんが子育てにおいて頑張ってきたことがリアルだった。生まれてから子供にとっては全ての瞬間が人生のきっかけになるかもしれないわけであって、仕事と違って休みなんてないから、四六時中気にかけていることの大変さよ。その苦労って夫が理解するのはただでさえ難しいことなのに、黒人だからこそ必死の思いで心がけていることを白人の夫に軽々しく踏みにじられたっていう背景も重なると難しすぎる。
父親に捨てられた思春期の子が一時期グレるなんて至極当然のことなのに、黒人だからって一瞬の隙もなく品行方正にしてなきゃいけないわけ??
誰よりも心配していながら、思春期らしい息子の葛藤を尊重してあげたいと思った母親の愛。でもその隙のせいで結局息子は死んでしまって、きっと自分のことを責めるお母さん、なんなら他人にも責められる。可哀想すぎる。。。
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