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種まく旅人~華蓮のかがやき~のDickのレビュー・感想・評価

4.3
●作品概要(出典:映画ログプラス)
①シリーズ1作目『種まく旅人〜みのりの茶〜』は、映画俳優としても活躍していた塩屋 俊の企画から始まり、自らがメガホンをとり、大分県の「お茶」をテーマに制作され、2012年に公開された。人の命を繋ぐ「食」をテーマにシリーズ化することで、第一次産業の活性化を考えていたが、公開翌年の2013年、56歳という若さで急病のためこの世を去った。その後、塩屋故人の意志を松竹撮影所が引き継ぎ、2015年に2作目『種まく旅人~くにうみの郷~』が、淡路島の「タマネギと海苔」をテーマに制作され公開された。翌年の2016年に岡山県の「桃」をテーマに3作目、『種まく旅人~夢のつぎ木~』が公開されている。そして、今回がシリーズ4作目となる。
②本作の題材は、石川県金沢市の伝統野菜でもある「加賀れんこん」。後継者不在に悩む農業の現実を見つめなおす重厚な内容に加え、農業で活躍する女性たち、通称「農業女子」を登場させ、心温まるヒューマンストーリーを完成させた。メガホンをとったのは、『シネマ歌舞伎 女殺油地獄』などの監督を務める井上昌典。主演は、シリーズ2作目に続き農林水産省で農業の活性化に向けて頑張る主人公・神野恵子役を演じる栗山千明。実家のれんこん畑の後継ぎ問題に直面する銀行マン・山田良一役を平岡祐太。その恋人を大久保麻梨子が演じる。

1.はじめに

❶日本の「食」を支える農業や漁業等の第一次産業に従事する人々を支援する企画、「種まく旅人」シリーズは、本作で4作目となる。

①第1作『種まく旅人~みのりの茶~』(2012年/塩屋俊監督)初公開日:2012/03
鑑賞日2012/03/4B★★★★/80点
出演:陣内孝則、田中麗奈、吉沢悠、柄本明、永島敏行、他
■大分県臼杵市。有機栽培の「茶」。

②第2作『種まく旅人~くにうみの郷~』(2015年/篠原哲雄監督)初公開日: 2015/05
鑑賞日2015/06/4B〇★★★★☆/95点
出演:栗山千明、桐谷健太、三浦貴大、谷村美月、永島敏行、豊原功補、他
■淡路島。「玉ねぎと海苔」。

③第3作『種まく旅人~夢のつぎ木』(2016年/佐々部清監督) 初公開日: 2016/11
鑑賞日2016/11/4B〇★★★★☆/95点
出演:高梨臨、斎藤工、池内博之、津田寛治、升毅、吉沢悠、田中麗奈、永島敏行、井上順、他
■岡山県赤磐市。果樹栽培「桃」。

④第4作(本作)『種まく旅人 華蓮(ハス)のかがやき』(2020年/井上昌典監督) 初公開日: 2021/04
鑑賞日2021/04/4B〇★★★★/85点
出演:栗山千明、平岡祐太、大久保麻梨子、永島敏行、綿引勝彦、木村祐一、他
■石川県金沢市。「加賀れんこん」。

❷どの作品も、農水産物のモノづくりに携わる人々の生活を、その地方の自然風土と共に、具体的に丁寧に描いていいて、教科書としての啓蒙の効果もある。小生のお気に入りである。

❸本シリーズのユニークな点:
①上記作品概要に示した通り、シリーズ1作目は、映画俳優としても活躍していた塩屋俊の企画から始まり、大分県の「お茶」をテーマに制作され、2012年に公開されたが、翌年、塩屋が56歳で急死したため、塩屋故人の意志を松竹撮影所が引き継いで、本作が4作目となる。
②4作全てに関わっているスタッフは、EP(製作総指揮)の北川淳一(松竹京都撮影所代表取締役会長)と、撮影監督の阪本善尚の2名のみ。
★塩屋俊の遺志を引き継いだ北川淳一が要になっている。
③監督、脚本、出演者等は毎回異なるが、中には継続している人もいる。
④継続している出演者(作品を上記❶の子番号で表示)
ⓐ永島敏行:太田忠志(農林水産省次官):①、②、③、④
ⓑ栗山千明:神野恵子(農林水産省職員):②、④
ⓒ田中麗奈:森川みのり(東京のデザイナー、臼杵市で有機茶畑を手掛けている祖父のピンチを救う):①、③
ⓓ吉沢悠:森川卓治(臼杵市職員、後に、みのりと結婚):①、③

2.マイレビュー

❶相性:良好。

➋プロローグは2019年の堺市。
①大学卒業後、堺市の信用金庫で真面目に働く山田(平岡祐太)は、厳しい上司(木村祐一)の扱きに堪え、3年越しの恋人・伊藤(大久保麻梨子)との結婚も近づく等、これまでは順調な人生だったが、ここにきて、大きな難問が出現した。
ⓐ山田が担当している零細企業の融資が打ち切りと決まり、社長から土下座して継続を要望されるが、山田にはどうしようもない。後日、社長は窓口の山田を恨んで自殺してしまう。
ⓑ山田の実家は金沢のレンコン農家で、父(綿引勝彦。本作が遺作)と母が切り盛りしているが、その父が倒れる。命は助かったものの厳しい農作業は出来なくなるが、他に後継者がいない。
ⓒ実家のレンコン農家には多額の借金が残っている。
★山田は、安定した信用金庫の仕事を捨て、更には恋人とも別れ、不安定で、多額の借金を抱える実家のレンコン農家を引き受けるべきなのか? それとも、現状に甘んじるのか?
③主人公の神野(栗山千明)は農林水産省の中堅職員。省内の会議で、日本の食料国内自給率が低い原因の一つとして、農家に嫁ぐ女性が少ないことが挙げられたのに対し、「女性問題は時代錯誤だ。大事なのは、農業が魅力的にすることだ。きつい農作業を、女性でも出来るように創意工夫することが大事だ」と反論する。
④それを聞いていた次官・太田(永島敏行)は、神野を金沢市へ出向させることを決める。金沢には、若い夫婦が経営しているレンコン農家があり、女性の従業員を雇って業績を伸ばしているので、そこで取材してレポートを作成せよとの業務命令である。
⑤かくして、神野をキーとした「加賀レンコン」の活性化活動が開始されるのでございます。
★さあさ、お立ち会い。お待ちかねの大感動ドラマの始まり、はじまーり(笑)。

❸良かった点:
①今回の目玉は「れんこん」。これまでは、「ハスの地下茎」程度の知識しかなかったが、本作では、栽培のイロハや、その問題点等を具体的に教えてもらって、大変参考になった。大いに興味が満たされた。
★同じ「モノづくり」でも、工業と農業では根本的に異なる。最大の違いは「天候」。農業では、人類が制御出来ない「天候」に左右される。(注1)
②併せて、高齢化、後継者不足、耕作放棄地の増加等の問題が提起され、その解決方法の一例が提示されているのも有用である。
③そして、一番のお気に入りはヒロインのキャラ。一本気でやや口は軽いが、言ったことには責任を取る。有言実行である。自分が納得するまでは、「カット&トライ」式に実行する。きつくて汚れる農作業にも躊躇なく手を出す。
★最近の日本の総理大臣は高級官僚とは正反対なり。
④ハッピーエンドの詰めは甘いが、まあ良しとしよう(笑)。

(注1)フィッシャーの「実験計画法」
①例えば、新しい肥料の効果を検証する場合のパラメーターは最小でも次の4つを総合的に判定しなければならない。ⓐ「肥料の種類」、ⓑ「作物の品種」、ⓒ「土壌」、ⓓ「天候」。
②或る実験で好結果が出ても、偶然天候が良かった為かも知れない。天候の悪い日に実験すれば、反対の結果になっていたかも知れないのだ。
②これ等の要因を全て網羅するには、膨大な費用と時間がかかる。
③この問題を解決したのが、サー・ロナルド・エイルマー・フィッシャー(Sir Ronald Aylmer Fisher/1890- 1962)。
イギリスの統計学者、進化生物学者、遺伝学者で優生学者であるフィッシャーは、現代の推計統計学の確立者であると共に、集団遺伝学の創始者の一人であり、ネオダーウィニズムを代表する遺伝学者・進化生物学者でもあった。フィッシャーが考案した「実験計画法」は、幾つもの交絡する要因の中から、最も効率良く(ベストのコストパフォーマンスで)最適解を見出す方法である。

❹まとめ
①劇中、農林水産省からエリートがやってくると聞いた金沢市役所の職員たちが渋い顔をする。上司は、「どうせやってくるのは世間知らずの新米エリートだろうから、観光名所を適当に案内して、お引き取り願え」と指示する。
★ジョークのようだが笑えない。「官官接待」が未だに無くならないことから判断すると、これは実態を表していると思える。
②このシリーズに登場する農林水産省は、組織も人も、「模範となるべき理想像」に近い形で描かれているように見える。しかし、近年のマスコミ情報から判断する限り、こんな優れた組織も人も皆無だと思われる(涙)。百歩譲って、優秀な人材がいたとしても、その個性を発揮する組織にはなっていないと思われる。
★その責任は、こんな風にしてしまった政治家を選んだ国民にあると思う(涙)。
★ここで愚痴を言っても埒が明かないので、この辺で止めておく(笑)。
③しかし、実態とかけ離れている今こそ、理想の姿を映画として描くことは価値があると思う。
④このシリーズが今後も続くことを期待したい。

❺外部評価
①KINENOTE:16人の加重平均値68点/100点
②Filmarks:28人の加重平均値3.5/5.0
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