ちろる

ミセス・ノイズィのちろるのレビュー・感想・評価

ミセス・ノイズィ(2019年製作の映画)
3.8
真紀はイラついていた。ものすごくイラついていた。
小説の仕事はスランプ真っ只中で、色んな事がうまくいかない。
娘の菜子の預かり保育も見つからないから仕事をしながら世話をしなければならない中、目を離した隙に菜子が行方不明になった。
すぐに戻ってきたけど隣人のおばさんが連れ回してたようだ。
文句を言ったけど、まるで聞き入れてもらえない。
さらには早朝に布団を叩く騒音が毎日。
ほんと非常識、非常識な隣人。
引っ越ししたのは失敗だったかもしれない・・・そう全てにイラついていた。

元々真紀の刺々しさに最初から危うさが潜んでいた。
隣人である美和子の声は全く聞こえず、いなす夫の声も怒りで返す。
私生活が上手くいかないイライラへの怒りが、いつしか全て隣人にぶつけられて、冷静さは失われていた。
相手が悪い、相手が変な人だ。私たちは被害者なんだって思い込んでイラついていた真紀の姿は娘の菜子はどう映っていたのだろうか。

どうして規格外のきゅうりは受け付けないの?一方美和子は世間に怒っていた。
私は正しく生きてる。世の中がおかしい。
少しだけはみ出してたらみんなで笑い物にする。
規格外のきゅうりだって本当は食べられるのにと・・・

精神障害を患った夫を受け入れない社会への怒りとつながっているのかもしれない。
隣に越してきた真紀に頭ごなしにキレられて、真紀は美和子の『子供を放っておくな!』という説教を聞こうともしない。
幼い菜子が、大人の庇護もなく一人で遊んでいる。
美和子にはそれがどうしても許せない理由があったのだ。
人間関係が希薄になった時代。
引っ越ししたって隣に挨拶しないのが普通になっているこの寂しい現実。
誰もが個人主義に陥り、隣の誰かさんのことを知ろうともしない。
事情なんて知りたくもない。
そんな感じでトゲトゲ、ケバケバした気持ちのぶつかり合いがなくても良い事件を生むことになるのだ。

この映画の始まりがどんな風に結末を迎えるのか想像もつかなかった。
この映画はポップに、なんだかんだでハートフルに結末に向かうが、実際はそんな甘くないわけで・・・

人間自分のタガが外れてブチ切れてしまうことは自分にも無いなんて言い切れない。
身近なありえる?ホラーを存分に見せられて、自分がもし彼女たちになってしまったら・・・と想像してゾッとしてしまった。
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