木蘭

アトランティスの木蘭のレビュー・感想・評価

アトランティス(2019年製作の映画)
3.2
 2025年の近未来ウクライナを舞台に、戦争の後始末を描いた物語。

 2019年に制作されながら、これから訪れるであろう未来を生々しく予見している。
 つまり、荒廃し汚染され地雷が敷設されて人が生きていくのも困難な国土、政府は貧しく、死んだ者は死体として土に埋もれて発見されるのを待ち続け、生き残った者はPTSDに苦しみ続け、老朽化した工場は外国資本に買収されたあげくに閉鎖される・・・

そんな絶望的なウクライナで、家族も人生も心も無くしてしまい、残ったのは(戦後は役に立たない)染みついた戦闘技術のみという・・・捨てられたオートマタの様に生きていた主人公が、人間性を取り戻し、ここで生きていく理由を見いだしていく話・・・

がアート系映画として描かれる。

 監督がカメラやドキュメンタリー映画出身という事もあり、固定したカメラ、ワンシーン・ワンカットでセリフは少なく間の多い長回しを多用するなど、観客は登場人物や置かれた状況を、長々と観察させられる。
 最近流行だよね・・・こういう感じの映画。正直言って評価出来ないし、退屈。シーンをカットで繋がないからリアルタイムでしか表現出来ずに、逆に不自然さが際だったりするシーンも出てきたりする・・・そんなに早く湯は沸かないよ!・・・とか。

 それでも捨てがたい力を感じるのは、(監督こだわりの)マリウポリのイリイチ製鉄所の景観や、SEXシーンはハッとさせられる映像美があるし、2度ほど人生が大きく転換するシーンで普段動かなかったカメラが登場人物に迫っていく所は物凄くエモーショナルだし、何より映し出されているモノのリアリティか。
 主人公を演じるアンドリー・ルィマルークは俳優ではなく、元ジャーナリストで偵察部隊長として従軍経験のある人間で、出てくる軍人たちは国防軍やアゾフ連隊の本物の兵士だろう。法医学医も本物。
 それ故に、この映画の中に写し撮られた人や物の多くは、今はもう存在しないかも知れない・・・という現実は重い。 

 因みに、主人公が加わる戦死体を回収するボランティア団体の名前が「黒いチューリップ」なのは、アフガン紛争の時にソ連兵の戦死者を処理するウズベクにあった企業の名前で、そこから死体を運搬するAn-12輸送機をスラングで「黒いチューリップ」と呼んだ所から来ているのだろう。
木蘭

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