叡福寺清子

わたしの叔父さんの叡福寺清子のネタバレレビュー・内容・結末

わたしの叔父さん(2019年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

私のように,映画をはじめとした創作物全般に強い物語性を求める人にとっては評価しづらいのが本作のような日常を、それも淡々と描いた作品.こんばんわ.三遊亭呼延灼です.平均よりもスコアは低いですが,それは本作のクオリティ云々ではなく,単に私の守備範囲ではないという事だけでございます.そう考えますと,私がスコア4.2(KINENOTEでは84)を付けた『小さき麦の花』は,本当に奇跡みたいな作品だったのですね.
高校生から獣医になる夢があったクリスさん.しかし父親の自殺,さらには叔父が左足に障害を持った事から,その夢を諦め実家の畜農業を継ぎました.叔父の手伝いはあるもののただでさえ激務な畜農業(百姓貴族参照),同時に介護も行い,その生活に余裕はほとんどありませんでした.働いて飯喰って夜に叔父とスクラブルを興じる日々.そんな淡々とした日々を描き続けますが,変化が二つクリスさんに訪れます.一つは,出入りの獣医の手伝いをするようになった事.一度は諦めた獣医の夢に,小さな灯火が灯ります.もう一つは父親の墓がある教会でマイク青年と出会い,何度かデートを繰り返すようになった事.もっともそのデートには漏れなく叔父が付き添い・・・というか正確にはクリスさんが心配で叔父を目の届く所においておきたかった結果なんですがね.それに戸惑いながらも付き合うマイクさんはめっちゃいい人.そして,獣医さんのコペンハーゲンでの講演に助手として付き添いますが・・・

唯一の家族である叔父を失いたくないクリスさんは,時として過保護とも思える行動を繰り返します.ですが,自分の留守中に叔父が入院したことから,自身の選択肢を全て諦めて,叔父とこれまで散々っぱら繰り返した日常に埋没する事を選びました.その生活がクリスさんの幸福につながるのかどうかはわかりませんが,とにかくそういう生き方を選んだクリスさん.家族思いと称賛する声があるかもしれませんが,その叔父さんの方が,かなりの高確率で先に鬼籍入りするでしょう.その時,一人残されたクリスさんの心境を考えると,もうちょっと他の選択肢があったんじゃないかと,軽く陰鬱な気持ちになりました.最後,テレビが突然故障します.それはつまり,突然叔父を失うことの暗喩に思えてなりませんでした.