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どうしようもない僕のちっぽけな世界は、のlpのレビュー・感想・評価

3.5
東京国際映画祭にて鑑賞。

今年の日本映画スプラッシュの1本目は『どうしようもない僕のちっぽけな世界は、』。
一部例外はあるけれど、今年もまた多くの新鋭監督が集った日本映画スプラッシュ。今作の倉本朋幸監督もその一人。ネグレクトや幼児虐待といった題材を扱っているということで、新鋭監督が難しい社会派のテーマを如何に描くのか期待して鑑賞。

虐待を疑われ、一人娘を養護施設に入れられている父親が主人公。ある日、児童相談所から連絡があり、再び娘が家族と暮らすことを認められるが・・・という話。

主人公が徐々に追い込まれ、負の連鎖へと引きずり込まれていってしまう様子を映画は映し出す。着地点が見えないストーリー展開にグイグイ惹き込まれ、最後まで面白く観ることができた。
今作の倉本監督は舞台の演出経験はあるけれど、映画監督は今回が初めてとのこと。しかし、各シーンを淡白ながらもテンポの良く繋いで映していて、とても新人監督とは思えないストーリーテリングを披露している。

ただ、内容にはやや物足りなさも残った。そしてその正体は、上映後のQAを聞いていて分かった。
監督は今作の着想の1つを、自身が娘を思わず叱ってしまった経験から得たとのこと。そしてその一方で、今作を通じて日本の片隅に生きる人々の声を届けることにも主眼を置いているとのこと。この2つの視点は、それぞれ単体であれば全く問題ない。
しかし、組み合わせた時に少し齟齬が生じているように感じた。要は「誰もが子どもを虐待してしまう危険性を秘めている」という話をしようとする時に、主人公のキャラクターを類型的な「ダメな奴」にしてしまったことで、「この主人公なら虐待するのも頷ける」と思わせる余地が生まれている。個人的には、そこに少しチグハグさを感じた。

少し内容に物足りなさはありましたが、グイグイと映画に惹き込まれる面白い作品でした。未だ公開は決まっていないとのことですが、ぜひ一般公開を期待したい1本です。
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