MasaichiYaguchi

大地と白い雲のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

大地と白い雲(2019年製作の映画)
3.7
ワン・ルイ監督が内モンゴル出身の作家・漠月(モー・ユエ)の小説「放羊的女人」を原作に10年の歳月をかけて映画化した本作は、何処までも広がる空と草原、そこで草を食む羊、駆け回る馬、そんな環境に暮らすチョクトとサロールという平凡な夫婦の生活に起こるジレンマを移り変わる四季と共に描いていく。
夫のチョクトは都会での生活を望むが、妻のサロールは今までの暮らしに満足して変えたくない。
チョクトは此処ではない何処かへ思いを巡らせ、ふらりといなくなる夫に腹を立てながらも愛している妻のサロール。
互いの忍耐で綱渡りのような夫婦生活を続ける2人。
しかし自由で伝統的なの草原の暮らしにも少しずつ変化が訪れ、徐々に2人の気持ちがすれ違い始める。
そして或る冬の吹雪の夜、2人は大きな喪失を経験する。
この夫婦を演じるのは、共に遊牧民の家庭で生まれ育った俳優のジリムトゥと歌手のタナで、草原と都会という2つの異なる世界を知る2人が、遊牧民としての誇りと現代的な価値観の間で揺らぐ若い夫婦を繊細に演じている。
社会が引き起こした生活様式と文化的な価値観の急速な変化は、昔からの伝統的なものとの間に齟齬を生んでいき、更に個人的な幸せの追求と社会的な属性との調和が取りにくくなる。
だからチョクトとサロールは、単に愛する人と生きていきたい、ただそれだけのことが上手く噛み合わない。
愛ゆえに擦れ違う1組の夫婦の喪失と再生の物語は、圧倒的な自然の中で生きてきた人間の逞しさと強い存在感を放ちます。