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帰郷のKUBOのレビュー・感想・評価

帰郷(2019年製作の映画)
3.6
名前だけで1本の映画を背負って立てる俳優などなかなかいない。高倉健、渥美清、今だと誰だろう? 岡田准一? そして本作のレジェンド、仲代達矢もそう。

『海辺のリア』を見た後だけに、ボケ老人ならともかく、さすがにチャンバラは無理だろうと思ったけど、やはりこの人の芝居には他を寄せ付けぬ風格がある。

また共演者が全て芝居のできる人たちだから、全てのシーンの重みが違う。

仲代達矢VS常盤貴子。このがっぷり四つが一番凄かったかな。仲代達矢とここまでできる常盤貴子、すごいわ。

北村一輝VS田中美里。このシーンもすごかった。息を止めてなきゃいけないようなエロス。こんなシチュエーションあったら、誰でも堕ちるでしょ、と思える淫靡な空気を撮れる監督がすごい。

仲代達矢VS中村敦夫。こんなよぼよぼのチャンバラは初めて見たけど、追いかければ息が切れる、かえってリアルを感じさせてくれる決闘だった。

仲代達矢の若い頃を北村一輝が演じたんだけど、別人が演じるならベストなキャスティングだったと思う。

ただ日本にも『アイリッシュマン』のデニーロのようなCG技術があったなら、あの『椿三十郎』で三船敏郎と伍した狂犬のような若かりし仲代達矢を蘇らせてくれたら、おもしろいだろうに、とも思った。

仲代達矢にとって、87歳という高齢で「最後の作品になるかも」という思いで挑んだ本作。元々、日本映画専門チャンネルのドラマとしての制作だが、東劇のスクリーンにかけても十分劇場用作品として恥ずかしくない作品だ。

役柄の去りゆくヤクザと、自らの俳優としてのキャリアの黄昏を重ねて演じたという仲代達矢の新作。見応えありました。
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