なべ

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームのなべのレビュー・感想・評価

3.5
 マーベルシネマティックユニバースを観るのはエンドゲームでもうおしまいにしようと思ってた。この先ダークナイトのように深淵を覗き込むような世界観は望めないし、うす〜いキャラクターのヒーロー盛りみたいな作風にだんだん胸焼けしてきたから。
 スコセッシが言う「マーベルのあれは映画ではない」って言葉に全面的に同意したんだよね。だからもうフェイズ2や3に付き合うつもりは全然なかったんだよ。
 ところが、マルチバース・オブ・マッドネスでサム・ライミがメガホンをとったと聞き、決心が揺らいでしまった。死霊のはらわたをはじめ、ダークマン、スパイダーマン(トビー・マグワイヤ版)が好きだから。彼が撮ってるんなら観てみたいと。
 公開時はサム・ライミだと知らなくて見送ったけど、後に知って一応Blu-rayは買っておいたの。
 が、マルチバース・オブ・マッドネスが、スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームの続きであることから、本作が配信されるのをずっと待っていたのだ。前作を観ないとわからないってのがMCU作品の弱点。スタンドアローンでは楽しめないってバカげたやり口のせいで、ソフトを買っても観られないってのがほんと罪だわ。とまあひと通り毒づいたのでレビューしますね。

 へー、悪くないじゃん。もともとディズニーとソニーピクチャーズとの権利関係でアベンジャーズに出す・出さないでゴタついてたトム・ホランド版。MJはメリージェーンじゃないし、メイおばさんは若いし、何よりピーター・パーカーが軽いお調子者なのが苦手で。ヒーロー同好会みたいな軽いノリで正義を行使するお子様ランチなノリが肌に合わなくて。だから観るときは、“これはアンパンマンとかと同じ子供向け”と割り切ってた。
 それがドクター・ストレンジによるメタバース展開で、過去のサム・ライミシリーズとマーク・ウェブのアメージングシリーズとの共存が実現したからさあ大変。
 キャラクターが陰影に富んだトビー・マグワイアのピーター・パーカーや、ヒロインを殺してしまうまさかの鬱展開アンドリュー・ガーフィールド版ピーター・パーカーとの揃い踏み。これによって何が変わったかというと、薄っぺらい子供向けヒーローアクション作品に「苦悩」が持ち込まれたのだ。部活のノリでは描きようのない「親友の父親殺し」、「ヒロインをギリギリアウトで助けられなかったトラウマ」ってダークな要素がね。
 トム・ホランドは相も変わらず軽いんだけど、別の世界線のピーター・パーカー×2が尊くて。やっぱりぼくはトビー・マグワイア版が好きだわ。
 それぞれの後悔をこっちの世界でもう一度やり直すってのがもう。ご都合主義ではあるんだけど、そういうツッコミにはトム・ホランド版の軽いノリで受け流せてしまう。ズルいけど。最後に完全にリセットされた状態で終わるってところも上手いよね。
 まあ、そんないいとこどりが許されるのも、何でもありでゆるゆるなMCUだからなんだけど。たぶんマーティン・スコセッシは、これも映画とは認めてくれないと思うが、アンパンマンよりは楽しめたよ。ただ、これを絶賛するのはやっぱり映画ファンじゃなくてマーベルファン(といっても原作コミックを読むような熱心さは持ち合わせてないけど)だよね。
 MCU作品ってうまい棒だと思う。うまい棒はおいしいけどぼくにとっては最高のお菓子ではない。熱烈なうまい棒ファンはいても、ピエールエルメのマカロンとうまい棒どっちかあげるといわれたらそりゃピエールエルメ貰うでしょ。少なくともぼくはそう。いやいや断然うまい棒だなって人はいるだろうけど…本当にそれでいいの?とは思う。
なべ

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