けんたろう

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームのけんたろうのレビュー・感想・評価

5.0
嗚呼、然うさ。確かに彼の美しく果敢なき三部作と二部作とを冒涜するかの如き物語ではあるさ。加へて変にユウモアを交へたり、変にマアベルオタクに媚びたりしたせゐで、もう何うしやうもなく野暮たく成つちまつてゐるさ。CGも酷い出来さ。見るに堪えない代物さ。迚も此の作品たゞ一つを以て、素晴らしい作品だなんて賞賛する気には成れねえさ。
──けれども。けれどもよ。もう何うしやうもなく最高なんだよ。もう何うしやうもなく最高の物語りなんだよ!

嗚呼、真にスパイダアマンの物語りなり。課せられし運命を受け入れ、与へられし役割を全ふせんと奮闘しつゞけた過去のスパイダアマンシリイズの悲劇を昇華せしむる、スパイダアマン救済の物語りなり。
成るほど「運命を受け入れろ」なるメツセエジへの反抗をして、彼れらを救済せんとするのは、何度も云ふが、スパイダアマンへの冒涜である。然しながら、其れでも矢張り涙が出でつゞく。

其れあユウモアも小ネタもノイズにさへ感ぜられるさ。
けれども。けれどもよ。嗚呼、俺れあもう駄目だ。三者の揃ひし絵面にはもう──嗚呼、スパイダアマン!

高潔なる精神を以て、人々を救ひつゞくる誇り高き英雄。己れの不甲斐なさから親を亡くし恋人を亡くし、斯くして独り苦痛を胸に潜めながらも、市井の人々の親愛なる隣人として明るく陽気なる姿を其の孤独のマスクに描きたる永遠のヒイロオ。真の──嗚呼、真の英雄なり。然し哀しきかな、此の男を救ふ者は何処にも居らん。哀しきかな、彼れの苦しみは彼れにしか解らん。
孤独なんである。スパイダアマンとは、畢竟孤独なんである。だからこそ此の究極の救済には、涙が止まらないんである!
成るほど彼れは独りである。然しながら彼れは独りぢやあないんである!

然うして踏み出す孤高の一歩。詰まるところ、スパイダアマンの物語りとは、常にスパイダアマン誕生譚である。
「大いなる力には大いなる責任が伴ふ」
其の言葉の真意に愈〻胸を打たる。

嗚呼、私しよ、真にスパイダアマンたれ!
何れだけ馬鹿にせられながらも、今日も誰れかの為めに汗水垂らして働きつゞく。然うだ! 貴方こそがスパイダアマンだ!
此れは単なるヒイロオ譚なんかぢやない。永遠の孤独を宿命づけられし男の、決意の、覚悟の、生き様の物語りである。


①一月七日 TOHOシネマズ宇都宮 10
②一月十日 丸の内ピカデリー DolbyCinema
③二月十六日 MOVIXさいたま 9


追伸
彼の嗤ひ声。卑劣極まりない彼の嗤ひ声。凶悪なる笑顔で他を欺き非道の限りを尽くす彼の嗤ひ声。嗚呼、まさしくグリインゴブリンである。正真正銘の悪魔。最初にして最恐のヴイラン。矢張りスパイダアマンのマスタアピイスである。

追々伸
気持ちが全く落ち着かず。初観賞から投稿に至るまで、実に十箇月もの月日が経つてしまつた。むろん其の間には、様々なることを経験した。卒業研究、大学卒業、上京、新たなる日々、卒倒、適応障害、映画制作、友の音信不通、新たなる出会ひ等々。当たり前だが、経験は其の人を変へてゆく。私しも此の十箇月で、屹度大いに変化したことだらう。
然し、此の理想だけは全く変はらない。即ちスパイダアマンである。道化である。矢張り映画を遣らねばいけぬのだ。コメデイを遣らねばいけぬのだ。親愛なる隣人が見せてくれた大いなる一本道。いざ参らむ。