ノラネコの呑んで観るシネマ

ファースト・カウのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
4.5
西部開拓時代のオレゴン。
ひょんな事から出会った、流れ者の料理人クッキーと中国人移民のキング・ルーが、その土地にただ一頭連れてこられた牛に目をつける。
貴重なミルクを夜のうちに盗み、開拓者たちにドーナツを売って一攫千金を目論むのだ。
スイーツが珍しい時代、ドーナツは大ヒットするのだが、やはり悪いことは続かない。
ほんの僅かな欲をかいた結果、二人は絶望的な状況に追い詰められてしまう。
冒頭の現代のパートで結果は明らかなので、「どうしてそうなった?」で物語を引っ張る。
スタンダードの画面で展開する、極めて静かな物語。
夢と野心、少しの不安を胸に共闘する二人の男の友情、ただそばに誰かがいてくれる安心感が胸を打つ。
冒頭と見事なループを形作るラストは、神話的な荘厳さすら感じさせ、長く余韻が後を引く。
歴史の片隅には、誰も覚えていない人たちの物語が、無数に埋もれているのだろうなと思わされる。
悪いことしても悪い人に見えない、いい人キャラが滲み出るジョン・マガロと、情念の炎を内に秘めたオライオン・リーが良いコントラスト。