シズヲ

ファースト・カウのシズヲのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
3.4
開拓時代の最初期、白人のコックと中華系移民のコンビが盗んだミルクによるドーナツ作りで一獲千金を狙う。冒頭でウィリアム・ブレイクの詩が引用されて『デッドマン』を思い出す。主演であるジョン・マガロの温和な雰囲気、本作のムードをこれ以上になく物語っていて印象的。振り返ってみると『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のリリー・グラッドストーンも出てた。

男性的なイメージの強い西部劇を下地にしたうえで、マチズモやマジョリティの枠組みから外れる“料理人”と“アジア人”に開拓神話/アメリカン・ドリームを託している構図が面白い。乳牛とドーナツに一獲千金を見出すという設定も斬新でありながらアメリカ的なので印象深い。既存の神話を解体しつつ、新たな形でのアメリカ史を描こうとしている。ビジネスパートナーから始まった主役二人が“夢”を共有し、飾らぬ友情を育んでいく姿にも憎めない味わいがある。それと本作はゴールドラッシュ以前の19世紀前半を舞台としており、それゆえカウボーイの出番はなく専らマウンテン・マンの存在感が目立つ。そうした時代背景が影響し、物々交換の交易所が主要な舞台として出てくるのが興味深い。このへんの美術設定などのディティールは好き。

尤も本作、終始そんなにピンと来なかった。緩やかなテンポもそれ自体は別に良いんだけど、絵的な魅力やユーモアに乏しい場面が延々と続くので面白味を得られない。抑揚に欠けた演出も相俟って、テンポの心地良さよりも単に間延びしてて退屈な印象が強かった。『ミークス・カットオフ』はまだ荒涼とした画面と開拓期の女性像に魅力があったけど、本作では詩情以前に題材に対する手触りの淡白さを感じてしまう。そして映像の質感も確かに綺麗だけど、目を引く絵面はそんなに無い。ただ端正なだけで味わいに乏しい。たまに構図の良いシーンはやってくるものの(キング・ルーの自宅の扉と小窓を活かしたカットは好き)、映画を牽引するほどの魅力ではない。

全体的にはあまり好みの作品ではなかったけれど、それでも冒頭と繋がるあのラストはとても好き。あの唐突な切り方によって、あれこそが二人にとっての“旅の終わり”なのだろうと否応無しに悟ってしまう。そうして運命を共にした二人の絆が最後の余韻として遺される、その愛おしさには確かな味がある。
シズヲ

シズヲ