寝木裕和

ファースト・カウの寝木裕和のレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
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この映画のエンドロールまで辿りついた時、なにか重要なものを見届けたのに、それをすぐに誰かに的確に説明出来得ない… そんなものを目の当たりにしたと感じた。

映画館を出たあと、観たもの、なにか感じ入ったものを、後から反芻してバラバラだった断片が合わさり、ゆっくりと感動が滲み出てきた。

一本、太い大事な幹は、主人公の二人… クッキーとキング・ルー、彼らの友情譚。
そしてそれは西部開拓期の少し前、まだ未開の地であった場所で、アメリカン・ドリームを掴もうと野心を燃やす二人の様を映しつつ進行する。

ケリー・ライカート監督の物語の紡ぎ方は、あくまでゆっくり… ゆっくりと。
カメラの捉え方も奥ゆかしいというか、過度なドラマティックさを掻き立てない。

けれどもだからこそ登場人物たちの深淵な心のうちが見えてくるところが多い。

森の中の小屋から、起床したばかりのクッキーが眺める、キング・ルーの薪を割る様子。

この慎ましやかな目線から、友情とは違うなにかが芽生えた瞬間に見えるのだ。

そしてそれはラストの、キング・ルーが疲れきって動けないクッキーの横に添い寝をするシーンでも、見て取れる。

そんなふうに、この作品は友情についての話しに留まらない、重曹的な物語となっていて、さらにその配分具合がこの上なく絶妙。

たびたび醸す重要なテーマがもう一つ、それは、人類がずっと続けてきた(続けている)入植の歴史についてだ。

パンフレットを見ると、インタビューの中でケリー・ライカート監督はそれを「西への拡大」という言葉を使って説明している。

いまの世界を見ていると、たしかに、アメリカは大国であり、そこから経済的に、軍事的に、途上国にコミットを続けている。
けれどそのアメリカは、かつて数々の国から、未開の地ゆえの『金のなる木』を求めて手が入れられて形成された場所。

作中でもそれが端々に見え隠れする。

かの地で巨大な権力を持つ仲買人は「奴隷を一人、見せしめに殺すのはいい方法だ。他の奴隷たちが働くようになるからだ。」とほくそ笑み、パリの流行りは?異国の大都市ではなにが持て囃されてるか… と気にする。

… これらは、現在の世界でも起こっていることだ。

大国にはぺこぺこし、労働のために移住してきた途上国の人たちを差別し嘲笑する。

いろんなシーンから、いろんなことを考えさせられる作品であり、さらに驚くのがそれらが語られていく過程でそれぞれの題材が渋滞したりやかましくなっていないこと。
年末に素晴らしく重厚な作品を堪能した。
寝木裕和

寝木裕和