ベイビー

ファースト・カウのベイビーのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
4.3
他のケリー・ライカート監督作品に比べて、かなりフックを効かせた出だしだと感じました。謎の要素を含めた冒頭シーンは、ある意味物語のクライマックスであり、この作品の総てのように感じられます。

舞台は1820年代のオレゴン州。西部開拓時代に一攫千金を狙い、未開の地を彷徨い続ける男たち。夢を追う料理人のクッキーと中国人のキング・ルーは、ひょんなことから出会い、次第に仲良くなっていくことから物語は始まります…

やっぱりケリー・ラーカイト監督の作品は良いですね。改めて彼女の作品は僕に合っていると感じました。いつも思うのですが、ケリー・ライカート監督は物語の切り取り方がとてもお上手。映画IQもかなり高いですし、彼女の作家としてのセンスが抜群で本当に好きなんです。

原作は本作でも共同脚本された、ジョナサン・レイモンド氏の「The Half Life」という小説が基となっていて、ケリー・ライカート監督は初めてこの作品を読まれた時に、ご自身での映画化を強く熱望されたそうです。しかし二つの大陸を舞台にして描かれた壮大な物語をどのように纏めるか相当悩まれたらしく、長い年月を掛けた上でようやく「ファースト・カウ」のアイデアが生まれたとのことです。

そんな熱量が感じられる素晴らしい作品。静かに進む二人の友情物語がとても気持ち良く感じられ、冒頭こそ強めな印象があったものの、残りの時間はしっかりケリー・ライカート作品に仕上がっていました。落ち着いたカントリー調の劇伴と緑豊かな自然を背景にゆっくりと物語が展開して行き、不思議な感覚で繋がる友情と絆は主題として繊細に描かれています。

冒頭で映し出された河を渡る大型貨物船、そしてこの土地に最初に訪れた「First Cow」を乗せる粗末な舟。そこに描かれる対比は現在と過去を結び、この国が繁栄を遂げたまでの時間と、二人が眠り続けた時間の軸を繋ぎ合わせてくれました。その時間の長さを感じることにより、冒頭とラストで収束された時間効果が永しえの友情を映します。そしてあまり語り過ぎないラストは、おとぎ話のような時間の流れを作りだし、どこか時代の儚さを纏わせながら、静かに幕を下ろして行きます。

ケリー・ライカート監督の作品は余白を感じさせ、物語の向こうに余韻を残してくれますので、作品を観終えた後でもゆっくり物語に浸ることができるんですよね。

こうして改めて作品を振り返ると、まだ少し言い足りない部分も見つかりましたので、その他に気づいた細かい感想はコメント欄に入れておきます。
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