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ファースト・カウのギャスのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
3.5
開拓時代初期、名もなき2人の男たちの話。冒頭シーンから観客にはある問いが投げかけられる。
ライカート作品は「ミークスカットオフ」のみ観たことがあるだけだったが、あの感じを知っておいてよかった。静謐で芳醇な情報に満ちた映画を見る心構えができていた。
細かな自然の音や人間や牛の息、そこから醸し出すその時代やその場の空気や感情に存分に浸ることができたと思う。
あと画面が暗いシーンが多いので劇場での鑑賞を推奨。もちろん劇場のほうが集中力も持続するし。


ネタバレ
冒頭の2人並んだ白骨。何をしていた人なのか、なぜこうなったのかを念頭に置いてこの映画を見ることになる仕掛けだ。ハラハラさせられることにもなる。

映画はフィクションであり、あったかもしれない話を描く。とするならこの映画は、あの時代の男2人が並んだ遺骨になるまでの道のりとして想像し創造しえた一番あたたかい話なのかもしれない。マッチョとは対極にいる、人生に希望を持つようになった優しい2人。

ファーストカウというタイトルは面白い。この地域に連れてこられた最初の牛は、ロイヤルの名を冠する由緒正しい牛。その「牛」の乳を盗むことで、由緒も何もない「人間」は死刑になる。ファーストだからこそ起こるその滑稽さややるせなさ。そしてそのカウは共に草をはむ"友人"もおらず柵に囲われあまりに孤独だった。


以降↓スルー推奨だが
劇場を出て歩きながら、"私的ラストの想像"が浮かんだ。銃を持った追跡者は、もう少しのところで仲買に順を抜かされドーナツが食べられなかったあの青年。彼がようやく見つけた逃亡者2人のうちの1人はすでに死んでいてこれはドーナツを作れる方の男であり、青年はもうあのドーナツが食べられないことを知る。しかし彼は、鞭打ちの末に殺されるだろうキング・ルーを捕まえて仲買商に突き出すことをせず、代わりに一発の銃弾を放った。
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