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ファースト・カウのhasseのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
4.8
静岡のミニシアターで鑑賞。
とにかく静的でミニマムな作劇が徹底している。
ロベール・ブレッソンが『湖のランスロ』で静的な史劇を完成させたように、本作は静的なサスペンスを完成させてしまった。それは称えられるべき偉業だ。視覚的、聴覚的に観客を煽情するショットがなくとも「見れる」サスペンス。サスペンスぽい手法は、搾乳がバレる場面のクロスカットくらいか。最初に二体の人骨が掘り出されるシーンを提示することで、クッキーと中国人ルーのバッドエンド予想を漠然と植え付けられているので、バッドエンドに至るまでの過程そのものがサスペンスになる。

また、女性の物語を選択しがちな女性監督が、真っ向からフロンティアの男性社会における男性の友情物語を極めて自然なタッチで描いてみせたのも素晴らしい。これは、本当に素晴らしいことだ。

ライカート監督は『リバー・オブ・グラス』しか見たことないが、ここまで静的ではなくもっとざわざわしていた覚えがある。
最初のほうは木の実を割ったり、すりつぶしたりする音だけずっと流れている。(しかも人工照明なしのため、暗くて目を凝らさないと何やってるかもわからないみたいなショットがいっぱいある)
心地よいASMRすぎて序盤で眠りかけたほど。

なんなんだろうな、この独特の魅力は。
化学調味料を一切使わず素材の味を生かした和食みたいな味わい? 常に進歩しセンス溢れるサスペンス描写漬けにされた目には、とてつもなく優しい、プリミティブな演出が心地よく染みるのか。
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