あり

ファースト・カウのありのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
3.4
 西部開拓時代の物語だが、いつの世にも通じる普遍性が感じられるドラマで、観終わった後には色々と考えさせられた。

 貧困に喘ぐクッキーとルーは、いつか自分のホテルを持ちたい、いつか中国に戻って事業をしたいという夢を持って商売を始める。しかし、これが彼らの首を絞めることになってしまう。

 劇中でルーも言ってたが、何かを始めるということはリスクを背負うものである。確かに彼らは商売をするにあたって、些細な罪を犯してしまったかもしれない。しかし、この世に罪を犯さない人間などいるだろうか?人は生きるために動物や植物の命を奪っている。それは罪にならないのか?これでは貧しい者は一生貧しいままでいろと言わんばかりである。クッキーたちが辿る運命に憐憫の情を禁じ得なかった。

 そして、これは貧富の格差が広がる現代社会にも通じるドラマのように思った。今から200年も前の物語であるが、今見ても自身の身に引き寄せて感じられる作品ではないだろうか。

 監督、脚本はケリー・ライカート。原作は盟友ジョン・レイモンドで、彼は脚本にも参加している。
 これまでライカートの作品は何本か観てきたが、興味深いのは過去作との共通点が幾つか見られたことである。

 まず、映画の冒頭は現代から始まる。一匹の犬と女性が登場してくるのだが、これを見て自分は「ウェンディ&ルーシー」が思い出された。また、西部開拓時代という設定には「ミークス・カットオフ」が、二人の男の友情というテーマには「オールド・ジョイ」との相似も感じられた。

 物語はいたってシンプルながら、二人の商売が危機的状況に追い込まれていくクダリなど中々スリリングに観ることが出来た。決して派手さはないものの、しっかりと抑揚はつけられていたと思う。

 ただ、現代から始まる構成は賛否あろう。ここで物語の結末が明かされてしまっている。その後の展開は決して退屈するようなことはないのだが、どうしても予定調和な感は否めない。このオープニングなければもっと面白く観れたのではないか…そんな気がした。

 ライカートの演出は今回もリアリズムに徹している。全体的に丁寧に撮られており、破綻するような箇所もほとんど見つからない。

 また、今回は雄大に流れる川や森といった風景が作品に一定の風格を与えている。ライカートは基本的にスタンダードサイズを好んで採用するが、今回もほぼスタンダードの画面である。それでも冒頭の巨大タンカーが流れていくシーン、それに呼応する形で描かれる雌牛の登場シーンなどは、映像的なダイナミズムが十分に感じられた。
あり

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