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ファースト・カウのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
4.5
大きな運河に、巨大な船がゆっくりと進んでいる。
ただそれだけのファーストショットなのに、味わいが豊かでその後の映画の良さが期待される。
この現代パートでは、草原の中を犬と散歩をする女性が二組の綺麗に残った白骨を見つける…。

時代はさかのぼり、1820年代のオレゴン州、西武開拓時代ではあるが、多くの西部劇で描かれる時代より少し前、まだ町というものが形成されていない、森の中に家が点在して様子。
世界中から一攫千金を狙って人々がやってくる。

薄汚い恰好のおっさん2人(一人は開拓民の白人料理人、一人は中国系移民)に、いつからともなく友情らしきものが芽生え、商売でお金持ちになろうとする物語。
「誰が興味あるねん!!」とは某関西ローカル芸人の自虐的持ちギャグだが、ここでかたられるお話しも、触りだけ口頭で聞かされりゃ「誰が興味あるねん」な筈なのに不思議なほど引き込まれる。

じっくりと時間がながれる映画の世界にどっぷりと浸る感覚。

俳優達の〈顔〉が皆いいけど特に、この地にファースト・カウを仕入れてきた仲買商人を演じるトビー・ジョーンズが味わい深い。
演出は極めて抑制され、ストーリー上の起伏も小さいのだけど、その中で起こるスリルは意外なほど、ハラハラさせられ上手いなぁと唸らせる。

1820年代と現代パート、長い時間を感じさせる作りであり、先述した〈港のはじまり〉〈街のはじまり〉だけでなく、〈商売のはじまり〉〈ファーストフード店のはじまり〉なんかも感じさせてくれる(勿論、厳密には違うのだけど)。
突然、石油が沸いたり、
ゴールドラッシュで金が採れたりする事でその地域に一気に金と人が集まり栄えるという事がアメリカの歴史としてあった訳だけど、アメリカンドリームとか資本主義が勃興する中で、奪い合いや騙し合いがある、と知っている。
一頭の牛がやってきて、それがきっかけで小さな商売が興り、というミニマムな設定。
人知れず亡くなった二人の人骨から、誰にも思い起こす事がなかっただろう二人のドーナツ屋さんへと時を超えて誘う、
慎ましくささやかで、可笑しく、残酷さも在る物語。
とても豊かな想像を喚起する作品でした。
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