あかぬ

ファースト・カウのあかぬのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
5.0
友情の証明について。
男性的な支配下にあった西部開拓時代で共に生きづらさを感じていた料理人のクッキーと、中国人移民のキング・ルーのアメリカンドリームとその顛末を静かに描く。
西部劇でありがちな激しい銃撃戦や、荒野を馬で駆けたりといったマッチョイズムとは対角線の位置に存在する、ふつうなら脇役にすらなりえないようなふたりにスポットライトを当てた作品になっている。
全体的にみても劇的な演出はさほどなく、前半は特にふたりの暮らしを淡々と切り取ったシーンが大半で、料理したり食事したりするふたりの生活のようすが細かく描かれている。森の環境音とか、料理したり薪を割る生活音なんかが心地よくてついウトウトしてしまうが、中盤に構える「ミルク泥棒でドーナツ作り」というキャッチーな展開が、観客の興味をほどよく惹きつけ飽きずに観られる作りになっている。
牛の持ち主にいつバレるかハラハラさせられるコメディチックなサスペンス要素もあり、お願いだから捕まらないでといつのまにかふたりに感情移入してしまっている自分がいて、かなり楽しんで観れた。
結末はほろ苦く、切ない気持ちになるものの不思議と心地よい空気感が後を引く奇妙な映画。

ふたりの物語をむりに飾り立てすぎずに、細部まで丁寧に仕立てられている、その繊細な仕事が物語やキャラクターに命を吹き込んでいてとてもよかった。個人的にはかなり好きな作品だった。
ケリー・ライカート監督の作品は今作がはじめてなのでまた他作品も観なきゃ。

そんで「PAST LIVES」のアーサーといい、今作のクッキーといい、ジョン・マガロ最高。
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